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男子A「とりあえず、8・13・14・15のボックスかな?中山の短距離は内枠怖ぇーし。お前はどうするよ?」 ある日の昼休み、廊下でスポーツ新聞を広げながら談笑する生徒たち。 どうやら、週末の競馬について話しているようだ。 指名された生徒は少し考え、こう答えた。 男子B「…3番から、5・8・9・12と流す…!馬連で2000円ずつ!!」 男子A「…?3番ってなんだっけ?…うげっ!!『テイエムカナリア』!?こねーよ!そんなの!!前のレースで、いきなりコースを逆走した奴だぞ!?」 男子B「いいや!来る!!こういう大勝負の時こそ、『テイエム』の冠が…」 ?「こらっ!」 その声に生徒たちが振り返ると、そこには2人の教師の姿があった。 水銀燈「全く…そんなのはゲームの中だけにしときなさぁい…。ハマッたら、火傷だけじゃ済まないわよぉ?」 珍しく正論を述べる水銀燈に、あっけにとられる一同。 いつもなら、こういう話には積極的に乗り出してきそうなものだが… そして、何かを思い出したかのように、もう1人の教師もお説教を開始した。 蒼星石「あ…うん!そ、そうだよ…!それに、未成年は購入禁止のはずだし…バイトだって、正当な理由さえあれば…」 男子A「で、でも…ほんのちょっとなら…」 その一言に水銀燈は目を光らすと、蒼星石の手を引っ張りながらこう言った。 水銀燈「…蒼星石、この場は私に任せて…。この子達、楽してお金を手に入れたいみたい…。だから、私がちょっと目を覚まさせてあげるわぁ…。教師の中じゃ、一番そう言うの知ってるしぃ…」 そして、その言葉に蒼星石がその場にいなくなったことを確認すると、皆に向けて静かにこう言った。 水銀燈「…で、何に賭けるのぉ?さっさとお金渡しなさぁい…。」 男子A「…えっ!?」 水銀燈「何、ボーっとしてるのよ…。ほら、買ってきてほしいの…早く紙に書きなさぁい…。また人が来られちゃ面倒だわぁ…」 その言葉に、その場の生徒たちは一斉に動いた。 つまり、さっきは蒼星石先生がいたから、あんな事を…。 やがて、水銀燈は資金を回収し終わると、生徒たちの予想と新聞を見比べながらこんなことを言い出した。 水銀燈「『テイエムカナリア』…もっと賭けなくていいのぉ?」 男子B「え…!?でも、みんな来ないっていうし…もしもの時を考えて…」 水銀燈「バカねぇ…。みんなが言ってたからって、それがいつも正しいとは限らないのよぉ?それに、レースが始まる前から、そんな弱気でどうするのよ!?自分が信じた馬なんでしょう!?」 その言葉に、Bの心は揺らいだ。それを見て、水銀燈はダメ押しとなる言葉を囁いた。 「…あーあ、予想オッズ…全部万馬券なのにぃ…」と。 それを聞き、追加投資をするB。それを見て、他の生徒たちもそれに追従した。 やがてそれが終わると、水銀燈は意味深な笑みを湛えながら、その場を後にした。 水銀燈「ふふっ…本当にお馬鹿さん…。ま、このお金は、私が有効に利用してあげるわぁ…」 誰もいなくなったところで、水銀燈はつい本音を洩らす。 そう…彼女は馬券を買ってくる気など、最初からなかったのだ。 ギャンブルとは、必ず胴元が儲かるもの…。だからこそ、水銀燈はその生徒のお金を目当てに名乗りを上げたというわけだった。 生徒に追加投資をせびったのもこのため…万馬券なんか来るはずが無い…彼女はそう考えていた。 …しかし、そんな予想に反し、『テイエムカナリア』は本当にレースに勝ってしまった。 ちなみに2着は、これまた人気薄の9番…。なんと、倍率159倍の万馬券だった。 男子A「おい!昨日は凄かったな!!おめー、いくら儲かったんだよ!?」 男子B「5000円賭けたから、約80万かな!?うわー!!マジで信じらんねー!!」 レース翌日の月曜日、生徒たちの興奮は全く冷める気配がなかった。 そして、その足で急いで水銀燈を探し出すと、早速本題を切り出した。 男子B「…で、先生…例のお金のほうを…」 水銀燈「…ん?何の話ぃ?」 男子A「またまたー!昨日の競馬の話ですよー!!コイツ、万馬券取ったじゃないですかー?」 水銀燈「ふーん…で?」 男子B「いや、だから…まさか…!?」 水銀燈「…言っとくけど、私は『買ってくる』なんて一言も言ってないわよぉ?私は紙に数字書かせて、校則違反の罰金を取っただけ。何、勘違いしてるのぉ…?」 男子B「え!?嘘でしょ!?そんなの汚いっすよ!!」 まさに天国から地獄…。もはや、生徒のほうは泣きそうになっている。 しかし、水銀燈はお構いなしにこう言った。 水銀燈「汚くて結構…。世の中はそういう風に廻ってるのよぉ?正直者が馬鹿をみるってね…。いい勉強になったでしょう?」 男子B「そ…そんな…」 水銀燈「そんな目をしても駄目よぉ…♪この世を生き残るには、汚いことをしなきゃ生きていけないの。だから…」 ?「…だからこそ、僕達が生徒たちを正しい道に導かなきゃいけないんじゃない?そんな間違った世の中を変えるために…。」 驚いて声のしたほうを見ると、そこには満面の笑みを湛えた蒼星石の姿があった。 手には、その小さな体に不釣合いな、大きな剪定用の鋏(はさみ)を携えて…。 蒼星石「水銀燈、待っておくれよ…。ちょっと話したいことがあるんだけど…!」 水銀燈「やぁよ。怖いもの…!」 早歩きで廊下を進む2人。そしてその速度はどんどん増し、やがて2人は全速力で廊下を走り出した。 真紅「廊下は走らない!また何かしたの!?水銀燈!!」 雛苺「わーい、ヒナもー!!」 こうして、彼女を追いかける人数は次第に増えていき、気がつけば教師全員が水銀燈1人を追いかけるという異常事態に発展していた。 当然、授業は一時中断。それを見て、教頭であるラプラスは半ば諦めた様子でこう呟いた。 「はぁ…この学園名物の『教師対抗追いかけっこ』が、今日も始まってしまいましたか…。」 と。 私立有栖学園…ここは、そんなにぎやかな先生が数多くいる学校である。 完
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水銀燈「じゃ、ばいばぁい…」 17時のチャイムが校内に鳴り響く中、そう言って職員室を後にしようとする水銀燈に対し、真紅は両手を広げて、その行く手を遮った。 今まで、言いたい事をかなり溜めていたようで、彼女の顔には不満の色がありありと浮かんでいる。 「何よ…」と食い下がる水銀燈に、真紅は毅然とした態度でこう言った。 真紅「待ちなさい。みんな、まだ仕事をしているのよ?」 水銀燈「だから?…いい?私の仕事はもう終わったの。何か問題でもある訳ぇ?」 真紅「あるから言っているのよ。水銀燈、あなたはもう少し誰かのために働くべきだわ。」 その言葉に、水銀燈は呆れたようにこう返答した。 水銀燈「…馬鹿馬鹿しい…。自分が出来ないのを棚に上げて、この私にやらせようっていうの?冗談じゃないわ…。それに…」 その言うと、彼女は職員室の中にいる1人をちらりと見ながら、さらにこう続けた。 水銀燈「それに、こんな単純な仕事すら出来ないお馬鹿さんがいるからいけないんでしょう?中には、脳みそまで筋肉になっちゃって、日本語すら忘れちゃった子もいるみたいだしぃ…♪」 その言葉に、職員室にいる全員が一斉に凍りつく。 水銀燈が挑発した相手…それは雪華綺晶という、今月この学校に赴任してきたばかりの教師…。 水銀燈と彼女はある事がきっかけで敵同士となったわけだが、その争いは日を追うごとに激しさを増し、もう相手の顔を見ただけで喧嘩しあうほどになっていた。 他の教師たちからすれば、これほど迷惑なことは無い。 何せ、水銀燈を止めるだけでも精一杯なのに、それと同じかそれ以上の力を持ったものが現れたのだから… しかし、当の雪華綺晶はそんなことお構いなしに、不敵な笑みを浮かべながらこう呟いた。 雪華綺晶「…まともに出来るのは事務仕事だけ。私でさえなれたのに、未だに担任に復帰できないのは、やっぱり実力が無いから?」 薔薇水晶「姉さん…!」 言いすぎだ、と妹である薔薇水晶がこれをいさめる。 それを見て、水銀燈は必死に冷静さを装いつつ、こう言ってその場を立ち去った。 水銀燈「…なんか白けちゃったわぁ…。また遊びましょ、雪華綺晶…。」 そう…雪華綺晶が放った一言は、彼女の『弱み』を的確に捉えていたのだ。 水銀燈「…やっぱり、あの子だけは生かしておくわけにはいかないわ…。ちゃんと、計画通り進んでる?」 職員室を出た後、彼女は同じく必要最低限の仕事しかしていないメイメイに、表情を取り繕いながらそう質問した。 その問いに、メイメイはうやうやしく、こう答える。 メイメイ「ええ…。すでに、息のかかった者たちを射撃部に潜り込ませてあります。あとは汚名を着せるなり、途中で裏切らせるなり、何とでも…」 水銀燈と出会ってから十数年…彼女の弱さをメイメイは承知していた。 正直、これ以上この争いを長引かせる訳にはいかない。 せっかく、薔薇水晶さんのおかげでお姉様の心の病は快方に向かっていたのに、これでは元の木阿弥… ならば、邪魔者は早急に排除しなければ… 彼女が考えていること…それは他の人から言わせれば、逆恨みに等しい行為である。 そもそもの発端は、水銀燈が雪華綺晶のお金を騙し取ろうとした事にあるのだ。 だから、水銀燈が彼女にそれを謝った段階で全ては丸く収まるはずだった。なのに… 「そういえば…」と、メイメイはふと、あることを思い出した。 そういえば、薔薇水晶さんは雪華綺晶の妹…。 今は互いの事を考えて中立の立場をとっているようだが、流石に身内に危機が迫ればそんなことは出来ないだろう。 となると、いずれはお姉様を救ってくれた彼女にも、刃を向けなければいけない日が来るかもしれない…。 出来ればそれは避けたいところだが、目の前に立ちふさがるのであれば… 水銀燈「…イメイ…!メイメイ!!聞いてるの!?」 彼女の問いかけに、メイメイは慌ててこう返答した。 メイメイ「あっ…ご、ごめんなさい…!少し考え事をしていまして…」 水銀燈「…しっかりしなさいよ。晩御飯、どうするかって聞いてるの。まだ6時前だし、久しぶりに少し遠出して…」 そう言いながら屋内プールの脇を通り抜けようとした時、彼女はプールで1人の生徒が泳いでいるのを見つけた。 そういえば、水泳部なんてものも任されていたんだっけ…と思い返しながら、彼女は窓に顔を近づけて目を凝らす。 ガラスに付着した水滴のせいでよく分からないが、あれは確か… 水銀燈「桑田…由奈だっけ…?あなた、こんな時間まで何してるの?」 窓の横にある非常扉を開けて、彼女は生徒に向かって声を上げた。 その声に、少女は泳ぐのをやめ、少し驚いた様子でこう答えた。 由奈「あ…!はい!ちょっとクロールの練習をしてて…」 水銀燈「ふぅん…。そういえば、あなた水泳部も掛け持ちしてるんだっけ…。で、他の人はどうしたのぉ?見たところ、あなた1人だけみたいだけど…」 その問いに、由奈は思わず目を伏せた。 どうやら、自分のいない間…といっても入部説明会の時以来、今まで一度も水泳部には顔を出していなかったのだが、その間に何かがあったらしい。 一呼吸置いてから、由奈が口を開く。 由奈「…この前の練習試合で負けちゃってから、みんなやる気をなくしちゃったみたいなんです…。でも、入ったからには、少しは役に立てればって思って…」 水銀燈「…試合?」 そういえば、先任の蒼星石がそんなことを言っていた気がする。 うちの学校には、屋内プールがあるからどうとかと… そんな思案顔を浮かべる水銀燈に、由奈は少し安堵した様子でこんな事を言い出した。 由奈「…でも、良かった…!先生が戻ってきてくれたら、みんなもきっと…」 この言葉に、水銀燈は一瞬返答に窮した。 去年の自分の失態を、まさか知らぬわけではないだろう。 2、3年生の一部の者などは、よほど恨みがあるのか、未だに陰でこそこそとこの事を語り継いでくれているみたいだし… そんな事を考えつつ、彼女はことさら平静をよそおった。 水銀燈「…残念だけど、私にはその気は無いわ。大体、これのどこに自分の時間を割いてまでやる価値があるって言うの?」 由奈「…そうですか…。」 その言葉に、由奈はがっくりと肩を落とす。 もしかして、本気で自分が来ることを望んでいたのだろうか?あながち、演技をしているようには見えないが… 由奈「…あ!ごめんなさい…!!変なこと言ってしまって…!!でも、先輩方や友達のあんな姿見るの嫌なんです…。だから、少しでもその雰囲気が変わればと思ったんですけど…」 そう言うと、由奈は水中に身を翻し、残りの15m弱を泳ぎきった。 そして、呼吸を整えてからこう続けた。 由奈「…この通り、いくらやっても全然速くならないんです…。自分では結構練習したつもりなんですけど…。やっぱり、私には無理なのかな…。」 必死に明るさを取り繕ってはいるが、もうそろそろそれも限界のようだ。 恐らく、皆が水泳部を離れてから、相当悩みを溜め込んでいたのだろう…。 水銀燈「ストローク…」 由奈「…え?」 思わず出た言葉に、水銀燈本人も思わずびっくりする。 だが、一度言った以上、その言葉を取り消すことなど出来ない。 1つため息をつくと、水銀燈は淡々とした口調でこう説明した。 水銀燈「だからぁ…水をかくタイミングと、キックのタイミングが合ってないのよぉ。腕が前に出たときに、反対側の脚を蹴り下ろす事を意識してやってみなさぁい…。返事は?」 由奈「…は、はい!!」 元気よくそう返事をすると、由奈はもう一度力強く泳ぎ始めた。 彼女の言いつけを必死に守りながら… そのひたむきな姿に、水銀燈は小さくこう呟いた。 水銀燈「誰かの為に…ねぇ…」 「馬鹿馬鹿しい…」と思いつつも、水銀燈はその言葉の意味を、極めて大きなものに感じ始めていた。 完 続き
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前ページゼロのミーディアム ニッコリと笑いかけて告げられた水銀燈のあまりに痛烈な言葉に、開いた口がふさがらないルイズとアンリエッタ。 驚愕の表情を向けられたお人形は、切れ長の紅眼を細め、口元を吊り上げた。 淡いぼんやりとしたランプの光に照らされた、眩しい天使の微笑みに影が差す。 そしてそれは人心を拐かすような、妖艶な悪魔の微笑みに変貌した。 「私、いい加減貴女の身勝手さにうんざりしてきた所なの。勝手にそんな重大任務を安請け合いしちゃうなんて…。正直付き合いきれないわ」 彼女はほとほと愛想がつきました。と、言わんばかりに肩を竦める。 魔法で出来た氷の槍のように冷たく、刺すような使い魔の言葉に、ルイズはキッと鳶色の瞳に怒りの炎を灯す。 それでも姫さまの前だからみっともない真似は見せられないと、感情を抑えた声で水銀燈に言った。 「水銀燈、もう一度言うわ……。私と一緒に姫さまの任務を受けるの」 「答えはノーよ」 (イエスって言いなさい……!!) (絶対にノゥ!!!) 語気を強めて出る言葉。 水銀燈は頬に手を当てると、もう片方の手で黒い羽をヒラヒラさせ、小馬鹿にするように続けた。 「貴女に対する言葉は全部否定で返させてもらうわ。今の私は『ノー』としか言わない女よ!」 「だったらあんたの心変わりを誘発してあげるわよ!」 ルイズは、ごそごそ椅子を引いてその上に立つと、フッと不敵に笑い水銀燈を上から腕組みして見下ろす。 我に策有りと言った会心の笑みだ。 少々行儀が悪いが、あくまで自分が上の立場と言う事を知らしめるつもりなのだろう。 「あんたの生活を面倒みてるやってるのは誰かしら?ご飯食べさせてあげてるのは誰だったかしら?誰?誰?誰!! 私よね、ご主人様の私よね!!」 ルイズは大袈裟に両手を広げ声高らかに告げる。 「あんただって、私に追い出されたくは無いでしょ? それとも、私以外に誰か頼れる人がいるって言うの?私に頼らずにこの世界で生きて行けると思ってるの!!」 「イエス」 ルイズはガタン!と大きな音を立ててイスからずり落ちた。 (ノーとしか言わないはず……!?) あっさりと答えた水銀燈の言葉に、勝利を確信したルイズの表情が脆くも崩れさる。 本気で追い出さそうとは思っている訳では無い。だが、脅し文句としては効果的なはず!と選んだ言葉だった。 予想だにしなかった結果に再びルイズは驚きに表情を固める。 水銀燈はククク…と口の中で笑い声を含ませ、固まったルイズに追い討ちをかけた。 「お馬鹿さんねぇ…。来たばっかりのころの話なら未だしも、今の私には強~い味方がたぁくさんいるのよぉ」 彼女の、それまで真面目な韻を含ませていた口調が、日頃の嘲るような猫なで声に戻る。 「シエスタに言えば親身になって私の事を案じてくれるでしょうねぇ。キュルケだってああ見えて話の分かる子だし。 ああ、学院長さんやコルベール先生は全面的に私に協力してくれるって言ってたわぁ。 最後の手段に、タバサにモフモフちらつかせば大喜びで私を向かえてくれるでしょうしねぇ!!」 ルイズはそれを聞くと、とたんに気分を沈めて押し黙ってしまった。 「むしろそれって追い出すんじゃなくて、使い魔に逃げられるって言うんじゃなぁい? メイジとしてどうなのかしらそれぇ。あははははは!」 水銀燈はルイズの様子に気付く事なく散々言いたい放題宣う。 俯いて表情の読み取れぬルイズを案じ、アンリエッタは彼女の震える肩に手をかけた。 「ルイズ・フランソワーズ…?大丈夫?具合が悪いの?」 そして王女はルイズの顔を覗き込む。ルイズは歯を食いしばり、瞳の縁に涙をためた、怒りと悲しみの入り交じったような眼差しを床に送っていた。 「フーケの時だってそうよ。まったく…私やキュルケ、タバサがいなかったらどうなってた事だか。貴女一人じゃなぁんにも出来ない癖に……」 ――今度は水銀燈が最悪の失言を漏らしてしまった。 今までの心無い言葉もルイズの心を傷つけるに十分な物だったが、 水銀燈の何気無く放ったこの一言こそがルイズの胸に、鋭く研がれたナイフの如く突き刺さった。 「私についてきて欲しいなら、今までの仕打ちを謝りなさいよ。そうしたら行ってあげなくもないわよ」 好き勝手言ったためか、鬱憤は大分発散されたらしい。 よくもまあ、ぬけぬけしゃあしゃあと言える物だ。 水銀燈は、何も言えないルイズに気を良くしたのか、得意気に言った。 なんとも単純な性格なお人形だが、ルイズの方はそうもいかない。 使い魔から受けたミーディアムの屈辱は計り知れないのだ。 「……あんたも、やっぱりそうなのね」 ようやく開かれたルイズの口から重々しく言葉が紡がれる。それは深い落胆を込められた暗い声色だった 「そうやって他の人間と比べて。私のことを他のメイジに劣る可哀想そうなメイジだって…、ずっと思ってたんでしょ……!」 「はぁ?」 ルイズは俯いたままこぶしを握りしめ、震える声で言った。 それに間の抜けた返事をする水銀燈。どうやら彼女、おめでたい事に、その口が招いた事の重大さに気づいていないようだ。 「あんたがいなきゃ、私は何も出来ない…。そうやって見下して、哀れみの目で私の事を見てたのね……!!」 俯いたルイズの顔からポタポタと水滴が滴り、床に染み込んで木目を濡らす。 流石にここまで来れば使い魔もミーディアムの異変に気付かぬはずがない。 「…ルイズ?な、なんなのよ突然」 「すぐには帰らないって言っといて、そばに居てあげるって安心させて! 裏では笑っていただけなんでしょう!私を魔法の使えない『ゼロ』だって!!」 「なっ!?貴女何言い出すの!?私は何も…!」 思いもよらぬルイズの激情と、矢継ぎ早に放たれる怒りの言葉に水銀燈は狼狽を隠せない。 いくらなんでもそこまでは…と、弁解をしようしたその矢先…… 「うるさい!!!」 悲痛に染まった怒りを込めてルイズは叫んだ。水銀燈は勿論、端から見ていたアンリエッタすらも、思わずビクリと肩を震わし気圧される。 使い魔も王女も時間が止まったかのように、下を向いたルイズの様子を窺う。 そんな重々しく淀んだ空気の中、ルイズが面をあげた。 円らな瞳から頬に流れ落ちる大粒の涙。嗚咽を鳴らし、唇を噛み締めながら、ルイズは悲しみと怒り、二つの意を含んだ眼差しを水銀燈に向けていた。 「そうやって私を馬鹿にして……! あんたに、私の何がわかるって言うのよ! …もう知らない。任務は私一人で果たして見せるわよ!あんたなんかどっか行っちゃえ!!!」 自暴自棄と言えそうな少女の叫びだった。ルイズは食いしばった歯をむき出しにし、息を荒くして水銀燈を睨み付ける。 「……何よ。意地張っちゃって」 ルイズの感情の爆発に面食らった水銀燈だったが、興醒めしたかのように吐き捨てた。 「なら、任務にでも何にでも勝手に行っちゃいなさいよ。 貴女一人で一体何ができるのか、見せてもらおうじゃない!!」 売り言葉に買い言葉だった。不愉快な感情を隠しもせず、水銀燈は部屋のドアへ飛ぶ。 「ご主人様の仰せの通り、私はどこかに行かせてもらうわ」 部屋に残された二人に、使い魔は皮肉を込めた捨て台詞を吐き、ドアを乱暴に蹴り開けた。 「あちょぷ!!」 蹴り開けたドアにガン!と何かがぶつかり、その『何か』の間抜けな声があがる。 眉を潜めて水銀燈はその何者かに目を向けた。 「ギーシュ…?貴方こんな所で何やってるのよ」 堕天使の向けた冷たい視線の先にいたのは、鼻を押さえてのたうち回っているギーシュだった。 乱暴に開かれたドアの奇襲を受け鼻っ柱を打ち付けたのだろう。 「鼻が!僕の鼻がぁッ!……はっ!?」 ギーシュは水銀燈の呆れた眼差しと、泣き顔のルイズの厳しい眼光。 そしてルイズを慰めるアンリエッタのきょとんとした視線に気づいて、慌てて襟を正してかっこつける。 「ギーシュ…あんた、盗み聞きしてたの…?」 ルイズが涙を拭ってギーシュに聞いた。 「いやぁ!薔薇のように見目麗しい姫さまの後をつけてみればこんな所へ…、 それでドアの鍵穴から様子をうかがえば……どうやらお取り込み中のようじゃないか」 フッ…と前髪を掻き揚げ、薔薇の造花を掲げ爽やかに言うが、どくどく流れる鼻血がすべてを台無しにしていた。 「…お姫さま。わざわざそんなナリしてまでして来るのは結構だけど、あんまり効果は無かったみたいね」 「黙りなさい!この期に及んでまた姫さまに無礼を!!さっさとどっか行けって言ってるのよ!!」 水銀燈の言葉にルイズが再び怒鳴り声を上げる。 泣き止んでもその怒りは留まるところを知らない。 古くからの友にして敬愛する姫さまを侮辱しているのだ。 ルイズは、こんな使い魔呼ぶんじゃ無かった!とすら痛感していた。 「別に気にしていませんから。とにかく落ち着きましょ?ね?ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタがルイズの桃色の髪を撫でながらやさしく諭す。そして水銀燈に目配せした。 (ここはわたくしが預かりますから…) 顔をそう言うニュアンスで困ったように微笑ませて伝えた。 それを見た水銀燈は、フン…と鼻を鳴らし、翼はためかせ、廊下の果てまで飛んでいく。 使い魔の姿が見えなくなるまで、ルイズはずっとその後ろ姿を睨み付けていた。 「それでは僕はこれで失礼…」 「待ちなさい。ギーシュ」 そろそろと忍び足でこの場を去ろうとしたギーシュにルイズの声がかかる。 無論、今までの興奮が収まる筈もなく、憤りを孕んだ暗い声である。 「あは、あはははは…」 怒りの矛先を向けられたギーシュは、ただ、冷や汗と鼻血をだらだら流しながら笑う事しかできなかった 部屋を出ていった水銀燈は、塔の屋根に腰掛け空を見上げていた。 双つの月が天頂に煌々と輝き、色鮮やかな星が宝石のように瞬く澄んだ夜空。 だが、彼女の胸中に広がる想いは、満天のそれと対局を成す曇天の空模様だ。 「ほんと…あの子ったら、勝手な思い込みで……」 水銀燈にしてみればルイズを戒める意味で、言った言葉だった。 予定ではしぶしぶ自分に謝って同行を頼むルイズに、「しょうがないわねぇ…」と一言呟いてアルビオンとやらに行く筈だったのだが。 …まさかあそこまで激昂するとは思いもしなかった。 少々言葉が過ぎたかもしれないとは思う。だが、決してルイズの事を『ゼロ』だとは思っている訳では無いのだ。 勝手な決めつけで濡れ衣着せられては彼女も黙ってられない。 誇り高き薔薇乙女たる自分が、人の世話などと言う慣れない事を善意でやってるのに。 それなのに何故が恨まれなければならないのか? 納得いかないわ。と、水銀燈は膝を折りうずくまって唇を噛んだ。 (あんたに、私の何がわかるって言うのよ!) 瞳を瞑るとルイズの悲壮な泣き顔が瞼の裏に浮かんだ。お人形の小さな胸が少しだけズキッと痛む。 たしかに水銀燈は、しばらく共に同じ時を過ごしたとは言え、まだまだルイズと言う人間を理解していなかったのだろう。 何気無く放った言葉が、あそこまでミーディアムを追い詰める等、思いもしなかった。 認識不足だった。やはりやり過ぎたかと再考する反面、ルイズから受けた仕打ちを思い出し、水銀燈はブンブンと首を振って思い直す。 「……私は悪くないわよ」そして、まるで自分に言い聞かせるように呟いて浮かない顔を下げた。 水銀燈は気づいていない。かつて過去に、自分は同じような出来事に立ち合ったと言う事を。 その背に、闇色に染まる堕ちた翼と、尽きる事無き深い憎しみを授かったあの時の事を。 ……信じていた者に裏切られる苦しみ。 彼女は、その酷さを痛いくらいに知っている筈なのに……。 次の日の早朝。朝もやかかる門前には、いつもの制服姿に乗馬用のブーツを履いたルイズと、 馬に鞍をつけているギーシュ。 そして一晩立っても不機嫌な水銀燈の姿があった。 「…何故貴方がここにいるのよぉ?」 「よくぞ聞いてくれたよ!あの後ダメ元で任務に志願したら、快く姫殿下が承諾して下さったんだ!!」 ギーシュは黒衣の天使の白い目を気にせず体を仰け反らせて感動している。 「ふぅん…相変わらず物好きねぇ」 「…水銀燈、君は本当にルイズについて行かないのかい?」 ギーシュの言葉に、それまで、我関せずと言った感じでそっぽを向いてたルイズがびくっと反応した。 無反応を装ってもやはり気にはなるのだろう。 話題に興味が無いかのように、目の前の馬を撫でながら、彼女は聞こえてくる答えに耳を傾ける。 「…あの子一人で行くって聞かないんだもの。まあ、今謝れば許してあげてもいいのだけれど」 一晩たてば反省するかと思っていたルイズだったが、己の考えの甘さにため息をついた。 水銀燈逹とは明後日の方向を向いているルイズだが、明らかにガッカリと肩を落とした後ろ姿から、 彼女期待の答えでなかったのがお分かり頂けるだろう それを目の当たりにした使い魔が、意地悪そうに口元を吊り上げて声をかけた。「…今ならまだ間に合うわよ」 「ふんだ!誰があんたなんかに!!」 朝方の清爽な、心洗われる空気も今の水銀燈とルイズには関係無い。 もう数えるのが面倒臭く感じるくらいにしつこい、二人のいがみ合いが、また始まった。 (姫殿下直々のお達しなのに彼女らときたら…はぁ、幸先悪いなぁ…) ギーシュはそのまったくもって穏やかでない雰囲気を非常に居心地悪く感じた。 自分がふった話ながら、どうにかして話題を変えようと腕組みして考え事を始める。 そして喧嘩している主と使い魔を見て、彼が愛して止まないずんぐりしたシルエットを思い出した。 「ああ、ルイズ。喧嘩中のところ悪いけど、お願いがあるんだよ」 「あ~?何よ」 ぎろっと威圧するルイズの眼光に多少おどおどしながら、ギーシュは足で地面をたたく。 「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」 ギーシュの前の地面が盛り上り顔を出す彼の使い魔。ジャイアントモールのヴェルダンデだ。 ルイズも水銀燈も何度か目にしているので別段珍しくは感じなかったのだが。 「ああ!ヴェルダンデ!君はいつ見ても可愛いね。困ってしまうね!」 ギーシュはすさっ、と膝をついて巨大モグラを抱きしめる。 モグラもまた主に抱きつこうと、嬉しそうにその短い手をバタバタさせている。 「美しい主従愛ですこと…どこかの誰かさんも、この十分の一でも私の事大切にしてくれればいいのに……」 使い魔の言葉を無視してルイズはギーシュに答えた。 「悪いけどだめね。その子地面の中進んで行くんでしょ?私達馬で行くのよ」 「心配ご無用!ヴェルダンデの地面を掘り進む力は馬の足にだってひけは取らんよ!」 そうだろ?ヴェルダンデ!とモグラの頭を撫で、ギーシュは胸を張って言った 「それでもアルビオンがどんな場所か知らない訳じゃないでしょ?モグラではやっぱり無理よ」 困った顔して否定の言葉を告げるルイズに、ギーシュはがっくりと膝を折って地面に突っ伏す。 そのおつむの中では、暗闇の中スポットライトを受け悲劇の主人公を演じてるであろうこと間違い無し。 「お別れなんて、つらい、辛すぎるよ……ヴェルダンデ…」 「オーバーねぇ、今生の別れみたいに…」 水銀燈はそう言った所で気付く。自ら言った、今生の別れと言うフレーズ。それが決して大袈裟では無い事を。 国の存亡を賭けた任務。敵の刺客や妨害があってもおかしくはない。 あらゆる手段をも持ってして、ルイズ逹の行く手を阻み、国亡の鍵となる手紙を先に手に入れるなり、ルイズから奪うなりしてくるだろう。 ミーディアムの行かんとする道は、それこそ命に関わる危険な大仕事なのだ。 使い魔の心が揺れ動いた。ルイズとギーシュだけで大丈夫なのか?自分も出向いた方がいいのではないかと。 少しばかり思考する水銀燈だったが、ルイズの「きゃっ!」と言う悲鳴を聞いて我に返った。 見ればルイズがモグラに押し倒され、鼻で体をまさぐられている。 スカートが乱れパンツまでさらけ出し、ルイズはジタバタ暴れていた。 「ちょっとあんた逹!ぼーっと見てないで助けなさいよ!きゃあ!」 任務に赴く前にもう躓いている。水銀燈は真面目に考えていた自分が馬鹿らしくなった。 情けない事この上無い。 この調子じゃ、泣きべそかいて帰って来てもおかしくない気さえする。 「貴方の使い魔、主人と同じでいい趣味してるわね……」 「ちょっと違うね。ヴェルダンデのお目当てはルイズのしてる指輪だよ」 「指輪ぁ?」 見ればルイズの右手の薬指には大きなルビーのついた指輪があった。お姫様から貰った物だろうか? 「ヴェルダンデは宝石に目がなくてね」 その言葉通り巨大モグラは宝石に鼻を擦り寄せている。 女の子に目がない主に宝石に目がないモグラの使い魔。 メイジの格を見るなら使い魔を見ろと言う格言を実に理解出来る。 むしろ使い魔はメイジに似るなんて言葉が出てきてもおかしくない。 「…やっぱりいい趣味してるわ」 「ハッハッハ!そんなに僕の可愛い使い魔を誉めないでくれ。主の僕が照れてしまうよ!」 誉めてねぇよ馬鹿薔薇野郎。 「バカ言ってないでどうにかしてよ!これじゃ、いつまでたっても出発できないじゃない!!」 「ご主人様ぁ?任務開始以前から挫折になられるとは、正直言ってお話しになりませんわぁ。 わたくし、任務にはお供いたしませのよぉ~? フーケを退けたご自分のお力で、何とかしてく~ださ~いなぁ~」 水銀燈はいつもの三割増しの嫌味を添えて、ルイズのSOSを突っぱねた。 丁寧な言葉だが、痛烈な皮肉の込められた嘲りの猫なで声。おまけ本人はえらく楽しそうだ。 ルイズからしてみれば、いつもと比べて通常の三倍の侮辱を感じた事だろう。 端から見れば普通の三倍に見えるそれが、実際には三割増しだったと言うのはワリと有名な話。 赤っぽい機体みた木馬のオペレーターもビックリ。 ルイズの顔も真っ赤っか。 まるでジュン君と喧嘩して顔を紅潮させた水銀燈の妹の一人みたいだ。 言ってみれば「赤い翠星(石)」 「ば、馬鹿にしてぇ!このくらい、どうと言う事はないわよ!!」 やってみるさ!と、どうにかしてモグラを引っ剥がそうと躍起になるが、これが中々うまくいかない。 むしろ上半身を押さえ込まれて周りを見る事も適わない。モニターが死ぬ!? すると… 一陣の風が舞い上がり彼女に抱きつくモグラを吹き飛ばした。 「ああ!僕のヴェルダンデ!!」 「敵が!?」 何者かの攻撃魔法。それを察した水銀燈が、すかさずルイズの前に立ち、長剣を羽で作り上げ、構える。 理屈では無い。考える前には既に体が動いていた。 …ついさっきまであんなにいがみ合っていたのに。 「誰だッ!」 「姿を見せなさい!」 ギーシュが激昂してわめき、水銀燈が緊張の面持ちで先の見えない朝もやを睨み付けた。 「待ちたまえ。僕は敵ではない。姫殿下より君達に同行することを命じられた者でね。 姫様は君らの身を案じて止まないのだが、お忍びの任務ゆえ、一部隊をつける訳にも行かないだろう?」 朝もやの先に、うっすらと羽帽子をかぶった長身のシルエットが浮かび上がった。 がっしりとした影の体躯と、声からして、そこにいるのが壮年の男性と伺える。 「そこでこの僕にお呼びがかかった訳さ」 影が、細長い剣か何かを引き抜き優雅な挙動で横に振った。 手にしたそれから巻き起こる旋風が、男の周りの朝霧を吹き飛ばす。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長。ワルド子爵だ」 そこには帽子を胸に当て、一礼をした凛々しい貴族の姿があった。 (この人、お姫様の歓迎の時ルイズがずっと見てた…それにワルドって名前もどこかで…) 水銀燈の、あの時心の隅に引っかかっていた疑問がまた顔を出す。 誰だっただろうか? 少しだけ答えに近づいた気がするが、まだ明確な答えは出なかった。 (ま、魔法衛士隊…それも隊長!?) 文句を言おうと口を開きかけたギーシュだが、相手が悪すぎると慌て口を閉ざす。 目の前にいるのは、全貴族の憧れたる魔法衛士隊の、しかもトップに立つ者なのだ。 ワルドはそんなギーシュの様子を見て、首を振った。 「すまない。婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬふりはできなくてね」 「いやいや!滅相もない!!僕の使い魔が貴方の婚約者にとんだ……。…え?婚約者?ルイズの?」 「ああ!思い出したわ!」 ギーシュが不思議そうに聞き返し、水銀燈が手のひらを叩いて顔をはっとさせた。 ルイズの夢で、彼女を慰めに出てきた、許嫁の貴族がたしかワルドと言う名前だった。 夢の中のルイズが魔法の誤射で彼を池に落とした際、確かに「ワルド様」と言っていた。 幾らか月日がたち、外見こそ変わっているが、顔つきや纏った雰囲気は、夢の中とさほど変わりは無い。 何より、ルイズのさっきとは違う意味で赤く染まった頬がそれを示してしている。 「ワルド様…」 立ち上がったルイズが、震える声で言った。 「久しぶりだな!僕のルイズ!」 「お久しぶりでございます…」 ワルドは人懐っこい笑みを浮かべルイズに駆け寄り、彼女を抱え上げた。 そんなルイズもまんざらでも無い様子。 ひとしきり二人の世界とやらを堪能しているワルドとルイズだった。 へいへい…ゾッコンって奴ね。 「彼らを紹介してくれたまえ」 ワルドはルイズを下に下ろし再び帽子を目深に被る。 「あ、あの……ギーシュ・ド・グラモンと……」 ルイズがギーシュに手を向けた。ギーシュはハッとした後、慌てて頭を深々と下げた。 次に、隣にいた己の使い魔が目に写った瞬間、ルイズのはにかんだ表情が突然しかめっ面に変わる。 「ルイズ?どうしたんだい」 首を傾げて尋ねるワルドに、ルイズは水銀燈を指でさして曇った表情のまま嫌々答えた。 「それと……ただの人形の使い魔です」 水銀燈の眉が傾き、眉間に皺がよった。だが、文句を言う舌も持たないと無言でルイズに鋭い視線を送る。 そんなお人形の様子にも関わらず、恐れも見せずに子爵は、気さくな感じで水銀燈に近寄った。 「ほほう、君がルイズの使い魔か。人間、いやまるで天界から舞い降りた天使のようじゃないか!!」 お世辞の上手い男だが、不思議と悪い気はしない。人徳と言う物だろうか? これがギーシュなら、はいはい…と手をひらひらさせて追っ払ってるところだ。 「僕の婚約者がお世話になっているよ。お名前をお聞かせ願えるかな?麗しきお人形のレディ?」 ワルドは手袋を外すと、握手を求めて水銀燈に手を差し出した。 「本来ならその美しい御手に口づけをお許し願いたいところだが、あの子が嫉妬してしまうからね。どうかこれでご勘弁頂けるかな?」 礼儀もわきまえているようだ。あのルイズのお眼鏡に叶うのも納得できる。 「…水銀燈よ。ルイズをいつもお世話してあげてるわ」 普通にそう言って、小さな手を差し出しその手を握り返す。 ワルドの後ろを見れば、ルイズが頬を膨らましてジト目でこっちを見ている。 いい加減疲れてきたわと、水銀燈は溜め息をついた。 「どうしたんだい?もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい? なあに!何も怖いこと等あるものか!君はあの『土くれ』を捕まえたんじゃないか!!」 その浮かない顔に、ワルドは彼女の肩をぽんぽん叩いて、あっはっはと大笑いする。 気持ちの良い豪傑笑いだ。性格や胆力も悪く無い。 「勘違いしないでくださる?行くのはあの子とギーシュ。私はただの見送りよ。」 「見送り?」 ワルドが首を傾げて聞き返す。後ろのルイズが水銀燈の真ん前まで歩いてきた。 「…さっきのは何よ。あんなので私のご機嫌取りでもしたつもり?」 ワルドがモグラを吹き飛ばした時、水銀燈がルイズを守ろうと、前に立ち塞がった事だ。 「あんた本当は私の事心配で心配でたまらないんじゃないの? いいわよ。『どうか私を連れて行って下さい。置いていかないで下さいご主人様』って言えばあんたもお供を許してあげるわ」 誘ってるのだが、馬鹿にしているのかわからないが、少なくともルイズ自身は水銀燈にチャンスを与えているつもりだった。 だが、いかせん言い方に難がありすぎる。水銀燈じゃなくても、こんな事言われてついていく者などいる訳がない。 「ふん、要らぬお節介だったわ。貴女こそ、私に『さっきはありがとう』の一言ぐらい言って欲しかったわね。 それを口実にお願いでもすれば私の気分も変わったでしょうに!!」 「…そう、残念ね!もう何言っても遅いわ。あんたは最後のチャンスを不意にしたのよ!!」 「その台詞、そっくりそのままお返ししてやるわよ!!」 ルイズと水銀燈の、憎まれ口の応酬を目の当たりにしたワルドが、呆れた様子で隣のギーシュに尋ねた。 「……彼女らはいつもこうなのかい?」 「いえ、いつもは意外と仲良さそうだし、口喧嘩くらいは時々してるのは見かけますが…。ここまで酷くなったのはつい最近みたいで……」 ギーシュも、頬っぺたを両手でつねり合う二人を、やるせない表情で見つめていた。 ほっとけば一日中喧嘩してるのかもしれない。 このままでは埒が空かないとワルドが二人の間に割り込んだ。 「失礼。別れを惜しんでいる所すまないが、なにぶん急を要する任務なんだ。二人とも名残惜しいとは思うがそろそろ出発しなければならない」 「「名残惜しい?誰がこんな子の事!!」」 一字一句、完璧に外さず、ミーディアムと使い魔の声が見事にハモった。 「真似しないでよ!」 「あんたの方こそ!」 「まあまあ…。落ち着くんだルイズ。 …使い魔君、安心して欲しい。ルイズはこの僕が命に変えても守ってみせよう。ここの留守は任せたよ」 ルイズの肩に手を置いてワルドが口笛を吹く。 翼がはためく音と共に、朝もやを切り裂いてグリフォンが現れた。 ワルドはひらりとそれに跨がり、ルイズに手招きをする。 「おいで、ルイズ」 ルイズは躊躇うようにして恥ずかしそうに俯く。さっきまで水銀燈と喧嘩してたのが嘘のようだ。 気持ちの切り替えが早い事で… 「おっと!僕も置いて行かれないようにしないと!」 ルイズがワルドのグリフォンに跨がるのを見たギーシュも、慌てて馬に乗る。 水銀燈は手綱を取ったギーシュへと飛んだ。 「ギーシュ。ちょっといいかしら?」 「ん?何かね?もしかして見送りのキスでも…」 言い終える前に、水銀燈の平手打ちがギーシュの顔に真っ赤な紅葉を刻みつけた。 その威力、推して知るべし。切りもみ上に回転して彼は馬から崩れ落ちる。 昨夜の鼻といい、顔面に深刻なダメージを負ったギーシュだが、任務開始前から深い傷を負う等、はっきり言って先行き不安な事この上無い。 気が立ってる彼女に、不快な冗談かましたので自業自得とも言えるのだが。 「ルイズの事、よろしく頼むわ…」 地面に尻餅をついたギーシュに、水銀燈は小さく耳打ちする。 「え?それをあの子爵じゃなくて僕に言うのかい?」 「…確かにあの人は貴方と違って性格良さそうだし、落ち着いてて、度胸もあるし、礼儀もわきまえてる上、腕もかなり立つでしょうね」 「……ああ、そうだね。彼は完璧だね」 ギーシュは落ち込んだようにこうべを垂れ、地面にのの字を書きながらいじけ出す。 そんな彼に水銀燈はさらに声を小さくして言った。 「……生憎ね、私完璧すぎるのって、信用出来ないクチなのよ」 複雑な感情の込められた意味深い韻だったが、ギーシュがそれに気付く事は無い。 「まあいいさ。薔薇を冠する友の言葉として、期待に添えるよう頑張るよ」 「ええ、お願いね」 水銀燈の様子に疑問の表情を浮かべるも、ギーシュは快く承諾した。 「喧嘩しててもやっぱりルイズが心配なんだね」 「!!」 ギーシュは軽く笑いながら何気無く言う。水銀燈の顔が朱に染まった。 「べっ、別に心配なんかしてないわよ!でもあの子一応は私の契約者なんだし、怪我でもされたら力だって貰えないだろうし、 なのにあの子、何でもかんでも突っ込んで行く癖があるから誰かが止めなくちゃいけないのよ! そうよ!万に一つでも命の危機にでもさらされたら私の方が困っちゃうわ!!」 無理矢理こじつけてるのが丸わかりだった。多分自分でも何を言ったか分かっていない、その場しのぎの発言だ。 ギーシュは、(それが心配って言うんじゃないか)と苦笑した。 「不安なら君も意地を張らずに来れば…」 「なんか言った?」 「いや、何でもないよ」 今度は拳をグーにして振りかぶった水銀燈に、ギーシュはすぐに口を閉ざした。 「見てなさい!ちゃーんと任務を果たして胸はって帰ってやるわ。ご主人様がどれだけ偉大か教えてやるわよ!」 「泣きべそかいて帰って来るのね。そう言う冗談は、果たせるだけの力と、張れるだけの大きな胸を持ってからにしなさいよ」 「まあまあ。別れの挨拶はそのくらいにして…」 ワルドはそんなルイズを抱き抱えてなだめると、杖を掲げて高らかに叫んだ。 「では諸君!出発だ!!」 グリフォンが駆け出し、ギーシュも水銀燈に手を振った後にそれに続いた。 それを黙り込んで見送った水銀燈と、ワルドの腕に抱かれたルイズが思う。 (…ちょっと謝れば許してあげたのに) ――寄しくも心の中で呟いた一言が同調した。 不思議と、二人のその落ち込んだ表情も似通った気がしたのも、気のせいでは無いのではなかろうか? グリフォンと馬はどんどん小さくなって行く。 「…本当に行っちゃったわ」 無意識の内に呟きがもれる。 そして、出発した面々が朝霧の果てに消え去り見えなくなった。 ぼーっと冴えない顔で、消えたルイズ逹に視線を残した水銀燈だが、視界に映るのが白い霧だけと気づいてそこで我に返った。 「フ、フン!……清々したわ!!これでしばらくあの子の世話だってしなくていいのだし。 羽を伸ばすチャンスが出来たんだものね!久しぶりに二度寝でもしちゃおうかしら!!」 誰も周りに居ないのに大声だしてわざとらしく言う。 そうして不自然に翼を大きく羽ばたかせ門のを飛び越え部屋に帰って言った。 そんな、出発する一行と、門へと引き返す人形を学院長室の窓から見つめている影が一つ。 「見送らないのですか?オールド・オスマン」 「ほほ、見ての通りこの老いぼれは鼻毛を抜いておりましてな…あ痛ッ!!」 呆れたように振り返ったアンリエッタの目には、鏡とにらめっこしながら、鼻毛をいじってるオスマン氏の間抜けな姿があった。 「余裕ですね…トリステインの未来がかかってると言うのに……」 「もはや杖は振られたのですよ。我々に出来るのは後は運を始祖に任せて、彼女らの吉報を待つばかり。違いますかな?」 「それはそうですが…」 ルイズは信用できる友人だし、ワルドも共に付けた。密命故に、表立った動きは取れないが、それでも最大限の助けはしたつもりだ。 自分の勝手でルイズに願った任務だが、アンリエッタは不安で仕方がなかった。 「なあに、彼女らならやってくれますわい」 「本当に大丈夫なのでしょうか?確かにワルドやギーシュもついておりますが…」 「いやいや、彼女らとは、ミス・ヴァリエールと使い魔の少女の事です」 アンリエッタは目を丸くする。そしてそれまでより更に、心配そうな顔で声を細めて言った。 「そのルイズのお人形の少女なのですか、…主と大喧嘩して任務には同行していないのです…」 「……なんですと?」 オスマン氏は、鏡から顔を上げ神妙な視線を王女に向けた。 「むぅ、それは困った事になりましたなぁ…」 「あのお人形さんは、それほどまでに強いのですか?」 「いいえ、一人の時はそれほどでも…。ミス・ヴァリエールも、その使い魔も、一人だけの力で言えば、同じく同行しているミスタ・グラモンの方が上でしょうなぁ」 「ならば何故?」 アンリエッタは疑問を投げ掛けた視線をオスマン氏に送るが、当のオスマン氏は一瞬だけ浮かべた真剣な顔つきを崩し、のほほんとしている。 「まあ、多分、大丈夫…では無いですかのう……?」 「質問を質問で返さないでください…」 多分だの、言葉を濁すような疑問符だの、オールド・オスマンの曖昧な返答はアンリエッタの気分を消沈させるに十分な物だった。 王女の頭にくらっ、と目眩が襲った。彼女は額に手を当て壁にもたれ掛かると、遠くを見るような目で天井を見つめ呟く。 「ああ、ルイズ・フランソワーズ、どうか無事で……」 だが、彼女が今出来る事と言えば、任務の成功を願う事と、友の身を案ずる事だけしかなかった。 ――水銀燈とルイズ、二人の間に走った亀裂。 悪い事が重なり過ぎた。言ってみればそう言う事になるのだろう。 だが、この喧嘩はそれで済ませるにはあまりに酷な物だった。 別れるまでに、仲を繕うチャンスは無数にあった。だが二人はそれらを全て不意にした。 ミーディアムと使い魔、彼女らは譲る事を知らない。己こそが正しいと信じて疑わない。 仮に非を感じても、プライドの高さ故、素直に認めようとしないのだ。 運命の悪戯か、あるいは始祖が少女達にもたらした試練なのかもしれない。 繰り返された日常の中で、フーケとの戦いで、モット伯の館の騒動で、だんだんと通い合ったはずの心なのに、あんなに一緒だったのに。 ――もう二人の少女は、言葉一つ通らない。 前ページゼロのミーディアム
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1 美由希「シン君、ちょっと残れるかな?」 シン「ええ?ちょっと今日は…これからスーパーの特売があるんで」 美由希「大切な話があるんだけどな」 シン「せ、先生。いや…ちょっと」 ???「(ガラッ)美由希、シンが困ってるだろう?ちょっと落ち着かないか」 シン「あ、あなたは」 レイ「(ガラッ)←教室のドアから なのは本編で活躍する機会があるかと思ったら父親よりも登場する機会が なかった高町恭也先生じゃありませんか」 ルルーシュ「(ガコン)←掃除用具入れから出てきた 実力はあれどもトラハ3本編じゃかなわない(しかもヒロイン勢) 相手も多くていまいち凄さが伝わらない高町恭也先生じゃありませんか」 イスラ「(カラカラカラ)←窓から侵入 さらには二次創作系のSSじゃあトラハ1とか2とかのヒロインにも勝てなかったり 高町恭也先生じゃありませんか」 恭也「周りが人外クラスなんだよちっきしょぉぉぉぉ」 美由希「あ、しまった。これから会議あるんだった、ごめんねシン」 レイ「泣きながら神速使ってどこかへ走り去ってしまったな」 ルルーシュ「気にしていたんだろうか」 イスラ「膝壊れてないといいんだけど」 シン「それよりもお前ら、どっからでてきやがった」 2 プラントにて シン「はぁ~、疲れた~」 水銀燈「まったく、たかがデブリ掃除くらいで疲れるんじゃないないわよ。 ミーディアム失格ね」 めぐ「そうね、水銀燈が言うならミーディアム失格だわ」 水銀燈「めぐ!?一体どこから!!」 シン「えーっと・・・誰?」 めぐ「こっちの方が、病気を治してくれるってゆうから。」 水銀燈「ちょ、だからってこんなところに・・・」 シン「水銀燈、この人・・・誰?」 めぐ「あら、ごめんなさい。初めまして、水銀燈のミーディアムの柿崎めぐです。 よろしく」 シン「あ、ああ。よろしく」 水銀燈「じゃなくて!今はもうあなたミーディアムじゃないじゃない!しかもよくここが」 めぐ「水銀燈は私に会えて嫌なのかしら」 水銀燈「そ、そんなことは……、って、違う、そうじゃなくて、なんであなたがこんなところに」 めぐ「私は水銀燈のミーディアムだから……」 シン「はぁっ、まぁ水銀燈と積もる話もあるだろうからちょっと席はずすよ」 めぐ「気を遣っていたかなくても…あ、いっちゃった」 水銀燈「ちょっと!シン、今のミーディアムはあなたなのよ!なんの疑問も持たず受け入れないでよ!」 めぐ「水銀燈…、私の事、嫌?」 水銀燈「そ、そんな事ないけど……、あー、もうスタッフ(?)どうなってのよ!」 3 シン「(カチャカチャカチャ)」 ヨウラン「お、どーした?シン、お前とうとうオタクになったか?」 シン「違う、予習だ」 ヨウラン「予習?」 シン「ああ、時期的に12人の妹ができるのは避けられたがこれからもしかすると 19人妹が増える可能性もなきにしもあらずだからな。その時のための予習 だよ。」 ヨウラン「19人って・・・シン、お前疲れてるよ。ちょっと休め」 シン「はは、馬鹿だなヨウラン。だって『俺』なんだぜ?」 言葉「今宵の鋸はよく切れる・・・」 はやて「甘いで!」 水銀燈「ふふふ、フェザーファンネル。いきなさぁい」 アティ(抜剣)「見切ったぞ!絶ェッッッッッ対に負けんのだ!!」 ヨウラン「あ、アア。そうだったな。頑張れよ・・・」 シン「(うつろな目で)あ、9女は鉄オタかぁ・・・」 -03へ戻る -05へ進む 一覧へ
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重苦しい空気が部屋を包んでいます。草笛みつ、通称みっちゃんと水銀燈は向かいあって座っています。 「だから、どうしてなのよ」 「どうしてもこうしてもないのよ。カナが自分で決めたこと」 イライラしながらオドオドしている水銀燈と違い、みっちゃんは落ち着き払っていました。それは大人の余裕であり、事態を把握している故でもあります。 「あの子は私に一度もそんなこと言ってないし、ヴァイオリンを続けたいなんて一度も言わなかった」 みっちゃんの家に着くなり水銀燈が金糸雀の留学についてを問い詰めた結果がこの有様でした。 要約すると金糸雀はドイツに音楽留学をするということです。 「そうでしょうね。カナの言うヴァイオリンを続けたいってのはプロになりたいってことだもの。つまり留学してもっと高みに昇りたいってこと。銀ちゃんと仲良く大人になってからを待てるような道じゃなかったのよ」 諭すのではなく突き放すような言葉に水銀燈は黙り込みます。「でも」や「私は」といった、言葉になりきれない単語が漏れるだけです。 「……カナは何度も何度も、銀ちゃんの知らないところで悩んでたの。いつ銀ちゃんに留学を打ち明けるか。」 結局言わなかったみたいだけど、と人ごとのように呟いた声が水銀燈に届いたのかはわかりません。 裏切られたような、騙されたような、そんな感情が水銀燈を包んでいました。でも、もし転校すると話されていたら金糸雀とケンカ別れをしていたような気もします。 水銀燈は意地っ張りで一度出した言葉を訂正なんて出来ません。感情的になったら言葉で金糸雀を傷つけてしまうと、容易に想像がついて、だから水銀燈は感情的になれません。 無駄に長い沈黙に、時計の音だけがカチカチと耳障りに響きます。机の上に置かれた携帯電話がチカチカと光りだします。でも、水銀燈は気がつきません。だからみっちゃんはあえてそれを指差し、伝えます。 「メール、来てんじゃないかな?」 水銀燈が鬱陶しげに携帯電話を開き、顔色を変えます。 「……」 「誰誰? 彼氏?」 目の色を変えて茶化しだすみっちゃんを無視して水銀燈は黙って携帯電話をぎゅっと握り締めます。 無反応の水銀燈に痺れを切らし、みっちゃんは真面目な顔に戻ります。 「銀ちゃんに残された道は二つよ」 指を二本立ててみっちゃんは大袈裟に喋ります。 「カナを諦めて残りの学校生活を愉快に過ごす。もしくはカナを選んで一緒にドイツに行く」 これの何が残された道なのかは、少々混乱している水銀燈にはわかりません。混乱している隙を狙うなんてみっちゃんはまるで詐欺師です。 「ほら、駆け落ちエンドのために一応銀ちゃんの分の飛行機のチケット買ってあるけど、使う?」 ダメだ、この人、なんて思う余裕は水銀燈にはありませんでしたが、差し出されたチケットをほぼ無意識にポケットにねじ込みました。それが僅かながら救いでした。 「考えとくわ」 甘ったるい何時もの声は水銀燈から聞こえませんでした。 机の上の乳酸菌飲料をぐいっと一気飲みすると、そのまま逃げるようにみっちゃんの家から帰って行きました。 玄関の靴にはもちろん気がついていなかったと思います。 しばらくして、水銀燈と話していたリビングの隣の部屋から、なんだか泣いているような声が聞こえ出したのをみっちゃんは無理やり雨の音だと思うことにしました。 本当に雨でも降ればいいと思いました。金糸雀の泣き声が聞こえなくなるくらいの強い雨が降ればいいと思ったのでした。 from 金糸雀 sub  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 信じられなくて ごめんなさい  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ むっつめ おんだんかをうたがうひ おしまい
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メンバー名 衣装名 レアリティ 属性 パフォーマンス(初期) パフォーマンス(最大) メンタル(初期) メンタル(最大) スキル 渡辺 麻友 冬制服.ver 4 緑 22410 42186 100 340 堅忍の瞬き 渡辺 麻友 冬制服.ver 5 緑 43803 59433 100 460 不屈の瞬き 松井 珠理奈 冬制服.ver 4 緑 22581 42130 100 340 不屈の刹那 松井 珠理奈 冬制服.ver 5 緑 43826 61987 100 460 無敵の刹那 高橋 みなみ 冬制服.ver 4 緑 22184 43782 100 340 治癒の夢 高橋 みなみ 冬制服.ver 5 緑 43896 61557 100 460 救済の夢 島崎 遥香 冬制服.ver 4 緑 21538 43662 100 340 安静の刻 島崎 遥香 冬制服.ver 5 緑 43880 61923 100 460 平穏の刻 横山 由依 冬制服.ver 4 緑 21564 42684 100 340 復活の魂 横山 由依 冬制服.ver 5 緑 43873 62385 100 460 治癒の魂 柏木 由紀 冬制服.ver 4 緑 22826 42313 100 340 不屈の刻 柏木 由紀 冬制服.ver 5 緑 43843 59014 100 460 無敵の刻 小嶋 陽菜 冬制服.ver 4 緑 22207 41747 100 340 熱気の瞬間 小嶋 陽菜 冬制服.ver 5 緑 43898 59465 100 460 熱烈の瞬間 川栄 李奈 冬制服.ver 4 緑 22622 42897 100 340 堅忍の瞬き 川栄 李奈 冬制服.ver 5 緑 43856 59742 100 460 不屈の瞬き 高城 亜樹 冬制服.ver 4 緑 22109 42396 100 340 回復の心 高城 亜樹 冬制服.ver 5 緑 43836 59050 100 460 復活の心 北原 里英 冬制服.ver 4 緑 22274 43613 100 340 堅忍の刹那 北原 里英 冬制服.ver 5 緑 43806 60648 100 460 不屈の刹那 入山 杏奈 冬制服.ver 4 緑 21572 43542 100 340 熱気の音 入山 杏奈 冬制服.ver 5 緑 43894 59314 100 460 熱烈の音 永尾 まりや 冬制服.ver 4 緑 21502 42291 100 340 復活の心 永尾 まりや 冬制服.ver 5 緑 43892 60811 100 460 治癒の心 倉持 明日香 冬制服.ver 4 緑 22259 41879 100 340 我慢の瞬間 倉持 明日香 冬制服.ver 5 緑 43859 59667 100 460 忍耐の瞬間 兒玉 遥 冬制服.ver 4 緑 22302 43544 100 340 復活の魂 兒玉 遥 冬制服.ver 5 緑 43881 60479 100 460 治癒の魂 田野 優花 冬制服.ver 4 緑 22664 42307 100 340 安らぎの刻 田野 優花 冬制服.ver 5 緑 43819 60381 100 460 平静の刻 矢倉 楓子 冬制服.ver 4 緑 21632 41790 100 340 不屈の一時 矢倉 楓子 冬制服.ver 5 緑 43896 62039 100 460 無敵の一時 武藤 十夢 冬制服.ver 4 緑 22654 43641 100 340 堅忍の一時 武藤 十夢 冬制服.ver 5 緑 43853 59932 100 460 不屈の一時 石田 晴香 冬制服.ver 4 緑 22282 42600 100 340 熱気の旋律 石田 晴香 冬制服.ver 5 緑 43834 59518 100 460 熱烈の旋律 前田 亜美 冬制服.ver 4 緑 22098 42795 100 340 復活の志 前田 亜美 冬制服.ver 5 緑 43863 59765 100 460 治癒の志 岩佐 美咲 冬制服.ver 4 緑 22594 42530 100 340 治癒の志 岩佐 美咲 冬制服.ver 5 緑 43878 59938 100 460 救済の志 松井 咲子 冬制服.ver 4 緑 22503 42787 100 340 不屈の瞬き 松井 咲子 冬制服.ver 5 緑 43869 61344 100 460 無敵の瞬き 伊豆田 莉奈 冬制服.ver 4 緑 22609 42704 100 340 熱気の歌声 伊豆田 莉奈 冬制服.ver 5 緑 43886 62226 100 460 熱烈の歌声 岩田 華怜 冬制服.ver 4 緑 21484 42986 100 340 安静の瞬き 岩田 華怜 冬制服.ver 5 緑 43874 62425 100 460 平穏の瞬き 大島 涼花 冬制服.ver 4 緑 21653 43695 100 340 我慢の一時 大島 涼花 冬制服.ver 5 緑 43844 62328 100 460 忍耐の一時 小林 茉里奈 冬制服.ver 4 緑 22491 42469 100 340 復活の命 小林 茉里奈 冬制服.ver 5 緑 43894 62486 100 460 治癒の命 佐々木 優佳里 冬制服.ver 4 緑 22245 42144 100 340 忍耐の刹那 佐々木 優佳里 冬制服.ver 5 緑 43857 59838 100 460 堅忍の刹那 鈴木 まりや 冬制服.ver 4 緑 22317 43376 100 340 忍耐の瞬き 鈴木 まりや 冬制服.ver 5 緑 43826 61910 100 460 堅忍の瞬き 高橋 朱里 冬制服.ver 4 緑 22425 43446 100 340 平静の刹那 高橋 朱里 冬制服.ver 5 緑 43806 61545 100 460 冷静の刹那 森川 彩香 冬制服.ver 4 緑 22089 42032 100 340 情熱の瞬き 森川 彩香 冬制服.ver 5 緑 43890 62149 100 460 激情の瞬き 大森 美優 冬制服.ver 4 緑 21772 43379 100 340 安静の一時 大森 美優 冬制服.ver 5 緑 43808 60503 100 460 平穏の一時 大家 志津香 冬制服.ver 4 緑 21845 41936 100 340 堅忍の刻 大家 志津香 冬制服.ver 5 緑 43866 60968 100 460 不屈の刻 加藤 玲奈 冬制服.ver 4 緑 22636 42280 100 340 冷静の瞬き 加藤 玲奈 冬制服.ver 5 緑 43820 61218 100 460 安静の瞬き 小嶋 菜月 冬制服.ver 4 緑 22718 41818 100 340 回復の魂 小嶋 菜月 冬制服.ver 5 緑 43815 60953 100 460 復活の魂 竹内 美宥 冬制服.ver 4 緑 22101 43481 100 340 熱気の鼓動 竹内 美宥 冬制服.ver 5 緑 43898 61163 100 460 熱烈の鼓動 田名部 生来 冬制服.ver 4 緑 22853 42923 100 340 熱気の刻 田名部 生来 冬制服.ver 5 緑 43812 59939 100 460 熱烈の刻 中村 麻里子 冬制服.ver 4 緑 22365 42649 100 340 我慢の刹那 中村 麻里子 冬制服.ver 5 緑 43837 59068 100 460 忍耐の刹那 名取 稚菜 冬制服.ver 4 緑 22138 43751 100 340 治癒の命 名取 稚菜 冬制服.ver 5 緑 43883 61039 100 460 救済の命 阿部 マリア 冬制服.ver 4 緑 22294 43380 100 340 安らぎの刹那 阿部 マリア 冬制服.ver 5 緑 43836 60500 100 460 平静の刹那 内田 眞由美 冬制服.ver 4 緑 21865 43326 100 340 治癒の命 内田 眞由美 冬制服.ver 5 緑 43848 61763 100 460 救済の命 小林 香菜 冬制服.ver 4 緑 22608 43378 100 340 回復の夢 小林 香菜 冬制服.ver 5 緑 43874 61643 100 460 復活の夢 島田 晴香 冬制服.ver 4 緑 21705 42116 100 340 不屈の瞬間 島田 晴香 冬制服.ver 5 緑 43864 62141 100 460 無敵の瞬間 鈴木 紫帆里 冬制服.ver 4 緑 22237 43093 100 340 冷静の一時 鈴木 紫帆里 冬制服.ver 5 緑 43890 61446 100 460 安静の一時 中田 ちさと 冬制服.ver 4 緑 22864 41852 100 340 治癒の心 中田 ちさと 冬制服.ver 5 緑 43817 60789 100 460 救済の心 平田 梨奈 冬制服.ver 4 緑 21359 42352 100 340 平静の瞬き 平田 梨奈 冬制服.ver 5 緑 43891 62237 100 460 冷静の瞬き 藤田 奈那 冬制服.ver 4 緑 22125 42707 100 340 熱気の歌声 藤田 奈那 冬制服.ver 5 緑 43850 61006 100 460 熱烈の歌声 古畑 奈和 冬制服.ver 4 緑 22265 41851 100 340 冷静の一時 古畑 奈和 冬制服.ver 5 緑 43824 62202 100 460 安静の一時 宮崎 美穂 冬制服.ver 4 緑 22338 41695 100 340 熱気の交響 宮崎 美穂 冬制服.ver 5 緑 43820 59561 100 460 熱烈の交響 相笠 萌 冬制服.ver 4 緑 22290 42800 100 340 熱気の瞬き 相笠 萌 冬制服.ver 5 緑 43864 60402 100 460 熱烈の瞬き 篠崎 彩奈 冬制服.ver 4 緑 22320 43629 100 340 安らぎの瞬き 篠崎 彩奈 冬制服.ver 5 緑 43889 59513 100 460 平静の瞬き 茂木 忍 冬制服.ver 4 緑 21866 43745 100 340 我慢の刻 茂木 忍 冬制服.ver 5 緑 43805 62467 100 460 忍耐の刻 岡田 奈々 冬制服.ver 4 緑 21783 43378 100 340 治癒の夢 岡田 奈々 冬制服.ver 5 緑 43879 61214 100 460 救済の夢 小嶋 真子 冬制服.ver 4 緑 21331 41890 100 340 回復の志 小嶋 真子 冬制服.ver 5 緑 43856 61611 100 460 復活の志 西野 未姫 冬制服.ver 4 緑 22777 42505 100 340 安らぎの瞬間 西野 未姫 冬制服.ver 5 緑 43883 60869 100 460 平静の瞬間 峯岸 みなみ 冬制服.ver 4 緑 21924 42800 100 340 平静の刻 峯岸 みなみ 冬制服.ver 5 緑 43827 60812 100 460 冷静の刻 岩立 沙穂 冬制服.ver 4 緑 22790 42467 100 340 治癒の心 岩立 沙穂 冬制服.ver 5 緑 43816 60126 100 460 救済の心 髙島 祐利奈 冬制服.ver 4 緑 22362 43688 100 340 回復の命 髙島 祐利奈 冬制服.ver 5 緑 43881 61255 100 460 復活の命 村山 彩希 冬制服.ver 4 緑 22879 42193 100 340 治癒の魂 村山 彩希 冬制服.ver 5 緑 43891 59052 100 460 救済の魂 梅田 綾乃 冬制服.ver 4 緑 22591 43526 100 340 安らぎの一時 梅田 綾乃 冬制服.ver 5 緑 43811 60563 100 460 平静の一時 岡田 彩花 冬制服.ver 4 緑 21630 42024 100 340 熱気の鼓動 岡田 彩花 冬制服.ver 5 緑 43821 59691 100 460 熱烈の鼓動 北澤 早紀 冬制服.ver 4 緑 21860 41778 100 340 熱気の交響 北澤 早紀 冬制服.ver 5 緑 43858 61671 100 460 熱烈の交響 内山 奈月 冬制服.ver 4 緑 21305 41772 100 340 熱気の旋律 内山 奈月 冬制服.ver 5 緑 43842 60915 100 460 熱烈の旋律 橋本 耀 冬制服.ver 4 緑 22429 43776 100 340 治癒の志 橋本 耀 冬制服.ver 5 緑 43810 60337 100 460 救済の志 前田 美月 冬制服.ver 4 緑 22877 42977 100 340 安静の瞬間 前田 美月 冬制服.ver 5 緑 43879 59035 100 460 平穏の瞬間 市川 愛美 冬制服.ver 4 緑 22213 43474 100 340 復活の命 市川 愛美 冬制服.ver 5 緑 43851 62352 100 460 治癒の命 大和田 南那 冬制服.ver 4 緑 22685 41777 100 340 我慢の瞬き 大和田 南那 冬制服.ver 5 緑 43826 62314 100 460 忍耐の瞬き 込山 榛香 冬制服.ver 4 緑 22298 41767 100 340 冷静の刻 込山 榛香 冬制服.ver 5 緑 43845 61384 100 460 安静の刻 佐藤 妃星 冬制服.ver 4 緑 22009 43248 100 340 安静の刹那 佐藤 妃星 冬制服.ver 5 緑 43802 60024 100 460 平穏の刹那 土保 瑞希 冬制服.ver 4 緑 21426 42626 100 340 忍耐の刻 土保 瑞希 冬制服.ver 5 緑 43826 62260 100 460 堅忍の刻 福岡 聖菜 冬制服.ver 4 緑 22434 43207 100 340 熱気の瞬間 福岡 聖菜 冬制服.ver 5 緑 43872 59328 100 460 熱烈の瞬間 向井地 美音 冬制服.ver 4 緑 21939 43036 100 340 治癒の志 向井地 美音 冬制服.ver 5 緑 43882 61654 100 460 救済の志 湯本 亜美 冬制服.ver 4 緑 22233 43004 100 340 平静の瞬き 湯本 亜美 冬制服.ver 5 緑 43885 59987 100 460 冷静の瞬き 野澤 玲奈 冬制服.ver 4 緑 22556 43550 100 340 平静の一時 野澤 玲奈 冬制服.ver 5 緑 43873 59116 100 460 冷静の一時 大川 莉央 冬制服.ver 4 緑 22067 43166 100 340 不屈の刹那 大川 莉央 冬制服.ver 5 緑 43813 62483 100 460 無敵の刹那 達家 真姫宝 冬制服.ver 4 緑 22809 43529 100 340 安静の刻 達家 真姫宝 冬制服.ver 5 緑 43882 59689 100 460 平穏の刻 西山 怜那 冬制服.ver 4 緑 22496 41845 100 340 熱気の音 西山 怜那 冬制服.ver 5 緑 43871 60854 100 460 熱烈の音 田北 香世子 冬制服.ver 4 緑 22503 43446 100 340 安らぎの刻 田北 香世子 冬制服.ver 5 緑 43801 59892 100 460 平静の刻 後藤 萌咲 冬制服.ver 4 緑 21651 43677 100 340 熱気の鼓動 後藤 萌咲 冬制服.ver 5 緑 43809 59801 100 460 熱烈の鼓動 下口 ひなな 冬制服.ver 4 緑 22028 42475 100 340 堅忍の一時 下口 ひなな 冬制服.ver 5 緑 43806 61055 100 460 不屈の一時 横島 亜衿 冬制服.ver 4 緑 21949 42970 100 340 回復の心 横島 亜衿 冬制服.ver 5 緑 43859 59867 100 460 復活の心 川本 紗矢 冬制服.ver 4 緑 21392 41875 100 340 平静の瞬間 川本 紗矢 冬制服.ver 5 緑 43851 59976 100 460 冷静の瞬間 木﨑 ゆりあ 冬制服.ver 4 緑 22790 43026 100 340 熱気の歌声 木﨑 ゆりあ 冬制服.ver 5 緑 43804 60399 100 460 熱烈の歌声 山本 彩 冬制服.ver 4 緑 22015 42236 100 340 復活の志 山本 彩 冬制服.ver 5 緑 43866 61003 100 460 治癒の志 小笠原 茉由 冬制服.ver 4 緑 21579 43260 100 340 熱気の音 小笠原 茉由 冬制服.ver 5 緑 43806 60759 100 460 熱烈の音 小谷 里歩 冬制服.ver 4 緑 22089 42773 100 340 情熱の歌声 小谷 里歩 冬制服.ver 5 緑 43883 61238 100 460 激情の歌声 渋谷 凪咲 冬制服.ver 4 緑 22870 42699 100 340 冷静の一時 渋谷 凪咲 冬制服.ver 5 緑 43898 59576 100 460 安静の一時 宮脇 咲良 冬制服.ver 4 緑 22687 43549 100 340 熱気の刻 宮脇 咲良 冬制服.ver 5 緑 43880 61887 100 460 熱烈の刻 中西 智代梨 冬制服.ver 4 緑 22583 42119 100 340 堅忍の刻 中西 智代梨 冬制服.ver 5 緑 43883 61628 100 460 不屈の刻 朝長 美桜 冬制服.ver 4 緑 22468 43512 100 340 熱気の旋律 朝長 美桜 冬制服.ver 5 緑 43828 61886 100 460 熱烈の旋律 生駒 里奈 冬制服.ver 4 緑 21652 43095 100 340 復活の命 生駒 里奈 冬制服.ver 5 緑 43825 62020 100 460 治癒の命
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私立有栖学園の校長・・・ローゼン、彼は変人でもあり奇人でもある、しかし彼の本当のやさしさを知る者は少ない 一方私立有栖学園の教師の一人水銀燈、彼女も悪く言えば変人でも奇人でもあるが、根は優しい先生である ○月×日 雨 水銀燈「なによぉ~・・・そんなに怒らなくてもいいじゃなぁ~い」 水銀燈の声が職員室に響き渡る・・・しかし 真紅「許すものですか!くんくん人形を返しなさい!」 翠星石「おめぇ~のした事は重罪ですぅ~、いい加減謝りやがれですぅ!」 蒼星石「悪いけど、今回は許しがたいな、僕の帽子弁償だけでは済まないよ?」 金糸雀「よくもカナのバイオリンを壊してくれたかしらー?」 雛苺「うにゅ~を返すのー!」 雪華綺晶「戦車を破壊して許されると思っているのか!」 この場に居る教師全員が敵であった・・・それもいつもなら仲介に出てくる蒼星石や揉み消してくれる雛苺に金糸雀まで そう、水銀燈は今完全に孤立していた・・・ 水銀燈「な・・なによぉ、皆して虐めなくてもいいじゃなぁ~い・・・」 若干反省したのかいつもの甘ったるい口調ではなく少々の怯えが混ざる しかし他の教師の猛攻は続き・・・・ 真紅「いい加減にしてよね?この脳みそジャンク!」 翠星石「食材を無駄にするなんて人間として風上にも置けないですぅ!」 蒼星石「悪いけど、これから友達関係見直させてもらうよ」 金糸雀「もう口利いてあげないのかしらー!」 雛苺「べ~~~~~っだぁ!」 雪華綺晶「ナチスを侮辱した事、悔い続けるがいい!」 ・・・・・ガタッ!全員が言い続けてると思いっきり席を立つ水銀燈 水銀燈「・・・・・・・・」 そして無言のまま職員室を出て階段を上がっていく、その目には確かに大粒の涙があった まだ階段を上がる、これより先は屋上である・・・・その時 薔薇水晶「あ、水銀燈先生おはようございます」 奥から歩いてきた薔薇水晶が挨拶をする 薔薇水晶「あのー、ここから先は屋上ですよ?」 いつもの元気がない水銀燈を心配する薔薇水晶、しかし水銀燈は無言のまま階段を上がる 薔薇水晶はそれ以上とめる事もなく頭に?を浮かべながら職員室へと向かった そして職員室に入ったが、そこはいつもの雰囲気ではなかった・・・そうなにかジメっとした感じが漂う陰気な空間であった 薔薇水晶「・・・・・・・・・ぉ・・・おはようございます・・・」 薔薇水晶がおどおどして入る、しかし挨拶は返ってこない・・・ いつもなら水銀燈の甘ったるい挨拶に始まって色々な挨拶が返ってくるがそれもない・・・そんな時 ガラッ!!!いましがた閉めたばかりのドアが開いた ローゼン「グッッッッ・・・・・・モォォォォォォニィィィィン!」 空気等まったく読まない奴が入ってきた・・・・ ローゼン「ん・・・ん・・・・?・・・・んんんんんん!?、どうしたんだい皆お通夜みたいな顔してぇ!ははぁん、さては僕が来たから照れてる?」 そんな事を一人浮かれて喋るローゼン・・・・そこで薔薇水晶が無言でローゼンの腕を掴み廊下へと引きずり出す そして廊下に出た二人・・・そんな中先に口をあけたのはローゼンだった ローゼン「水銀燈先生が居ませんでしたね、しかも皆さん暗い顔持ち・・・喧嘩でもしましたか?」 そこにはいつものローゼンとは打って変わって凛々しい男性のローゼンがあった そんなローゼンに一瞬見惚れた薔薇水晶だったが・・・ 薔薇水晶「・・・・水銀燈先生泣いてたの・・・なんでかは判らない・・・雨なのに屋上に行った・・・」 いつもよりはっきりとローゼンに話す薔薇水晶、そしてそれを聞き小声で「ありがとう、後は任せておきなさい」と言い階段を上がるローゼン 薔薇水晶は事態の内容すらわからなかったが、これで大丈夫だと確信した 一方屋上では水銀燈が雨の中屋上から校庭をただ一人見ていた 水銀燈(なんでこんなことになっちゃったんだろ・・・少しだけイタズラしただけなのに・・・) いつもの水銀燈ならこんなことは欠片も思わないだろうがこの時は違った・・・ ちょっと構って欲しい、ちょっと付き合って欲しい、ちょっと一緒に居て欲しい、これの延長線でイタズラの度が過ぎてしまっただけなのだが・・・ 水銀燈「・・・・皆に嫌われてるならいっそ・・・」 そう呟く水銀燈・・・・しかし ローゼン「いっそなんだい?そこから飛んで夢の彼方にでも行くつもりか~い」 等と緊張感の欠片も無い声が水銀燈に届き、その声の主に振り返る水銀燈 水銀燈「な・・・なによ!あんたなんか呼んでないんだからとっとと消えなさい!」 それに対し怒りをあらわにする水銀燈これに対して穏やかに答えるローゼン ローゼン「そうもいかないなー、だって僕校長だしー、それにお通夜みたいな職員室は耐えられないしね」 と、あっさりと切り返す 水銀燈「馬鹿いわないで頂戴、大体貴方みたいに何の考えも持たない人間が・・・」 そこまで言ってしまったと思った・・・ローゼンは自分を救いに来たのにそれをまた自分で手放したのだと自分を責める ローゼン「だねー、ほぉーんと考えもってないよー」 しかしそこには怒りや侮蔑の回答ではなく、いつものローゼンの回答があり・・・・次の瞬間彼の顔を見て世界が止まる ローゼン「でもね、僕は僕のやり方でだけど今の有栖学園が崩れないようにしたいんだ、もちろんそこには水銀燈先生の存在もあるよ」 口調はあくまでも穏やか・・・いやいつもみたく冗談等の意味が含まれない穏やかな声・・・・ ローゼン「君が何をしたか知らないけど、一度躓いたぐらいで飛び降りようとか考えるのは穏やかじゃないなぁ・・・」 変わらぬ口調、しかし最後の飛び降りようとの所には怒気が確かに含まれていた・・・ ローゼン「じゃぁ、僕はラプラスから逃げないといけないから戻るね♪」 そして戻るローゼン、そこにはいつもの・・・本当にいつものローゼンが居た 残った水銀燈は一人考えた・・・が、もう答えは決まっていた・・・ 泣いていたその顔は今ではすっきりとした顔に戻っている・・・ 水銀燈「ほぉ~んとに、私が居ないだけでお通夜とか・・・みんなおばかさぁ~ん・・・」 まだ涙声だが汚れの無い声で職員室に戻る水銀燈の姿があった・・・ いつの間にか雨は止んでいた fin
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790 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/01/02(水) 01 47 05 「おはよう、水銀燈」 それは、全く意識せずに、口から勝手に出てきた言葉だった。 けど、口にしてから気がついた。 ……ああ、俺はこの言葉を言ってあげたくて、いままでやってきたんだな。 水銀燈はというと、目の前に俺が居ることが不思議でしょうがない、と言いたそうな顔で俺のことを見返している。 「おはよう、って……なんで士郎が……? だって私、さっきまで……はっ!?」 そこまで言いかけて、突如水銀燈の両目が大きく見開かれる。 みるみるうちに顔がこわばっていくのが見て取れる。 どうしたんだ……この様子は尋常じゃないぞ。 「士郎、敵は!? あいつらは何処にいったの……あっ!?」 「ちょ、あぶなっ!?」 まずい! 右腕が無い状態で、跳ね起きるのは難しい。 そのことを失念していたのか、水銀燈の上体は、バランスを崩して大きく泳いだ。 あわや、したたかに打ち付けそうになったところを、俺が両手でなんとか受け止めた。 「う、うぅ……」 「だ、大丈夫か水銀燈?」 「よっ、余計なお世話よぉ……。 ここは……それに、あいつらは?」 「ここは俺の家の土蔵だよ。 あいつらってのが誰だかしらないけど、そんな身体で無理するな」 俺がそう告げると、水銀燈の表情がまた変わった。 緊張の顔から、一変して恐怖の顔へと。 「身体……? ……あ、わたしの、からだ……」 水銀燈は、まるでいま気がついたかのように、自分の右腕……肘から先が存在しない腕を凝視した。 そして、背中へ首をめぐらせて……やはり無くなっている、片翼を見る。 「ない……私の翼、私の腕……。 そう、やっぱりアレは夢じゃなかったのね……」 水銀燈は、ドレスの裾をぎゅっと握り締めて、沈痛な表情で呟いた。 心なしか、その身体はかすかに震えているように見えた。 ……分かってはいたけど、やっぱりこういう水銀燈を見るのは……辛い。 「水銀燈……」 ……正直に言えば、俺は知りたかった。 彼女の身に何が起こったのか。 誰が、彼女をこんな目に遭わせたのか。 それを知ってどうするのか、なんてわからない。 ただ、水銀燈に悪意を持つ、明確な敵の存在を、知りたかった。 だが……それを語ることが出来るのは、目の前で震えている少女だけなのだ。 果たして、何があったのか、いま尋ねるべきなのか? それを迷っているうちに、沈黙は第三者によって破られた。 「水銀燈。 目が覚めたばかりで悪いのだけど、いいかしら?」 「貴女……真紅!?」 一歩前に進み出た真紅が、水銀燈を真正面から見据える。 その毅然とした態度に反応したかのように、水銀燈の顔から恐怖が拭い取られ、再び警戒心をあらわにする。 「ごきげんよう、水銀燈。 貴女がそこまで手酷くやられるなんて……正直、驚いているわ」 「何故貴女がここに居るの!?」 噛み付くような喧嘩腰で叫ぶ水銀燈に、真紅は眉をひそめる。 「何故、とはご挨拶ね。 私が居なければ、貴女は目覚めることが出来なかったのに」 「……一体、なにをしたっていうの?」 「私が、士郎に教えてあげたのよ。 薔薇乙女《ローゼンメイデン》の発条の巻き方を」 ちょ、真紅、その言い方は拙いだろ!? 案の定、水銀燈の怒りの矛先は俺の方に向かってきた。 「なんですってぇ……士郎! 貴方、よりによって真紅なんかに縋り付いたの!?」 「え、いや、俺から頼んだわけじゃ……」 「手を貸したのは私の勝手よ。 士郎はそれに応じただけ」 俺の弁明を遮って否定する。 ……流石に、くんくんに釣られてやってきました、とは言えないか。 「聞いて、水銀燈。 私の知りうる限り、アリスゲームで身体の一部を失った例は、今回が初めてよ。 今まではこんなこと、一度だって無かった。 ううん、薔薇乙女《ローゼンメイデン》の中で、こんな残酷なことが出来る子なんて居ないはずだもの。 そんな真似が出来る薔薇乙女《ローゼンメイデン》となると……ねぇ、水銀燈。 貴女がやられたのは、やっぱりあの、薔薇の眼帯の……」 「……うるさいっ!!」 「えっ?」 真紅の推理を遮ったのは、水銀燈の一喝だった。 真紅を睨み付ける水銀燈の目は、憎しみで燃え滾っていた。 「恩着せがましく言い寄ってきたと思ったら……うるさいのよ、賢しげにゴチャゴチャと! 今回が初めて? 今まで一度も無かった? だから何よ、一番最初に失敗したからって、それで水銀燈を馬鹿にしたいだけじゃない!」 「違うわ、水銀燈、私は……」 「違わないわっ!! そうやって真紅は、いつもいつも……私のことを見下してるんでしょう!? そんな貴女なんかに話すことなんか、ないわ! 今すぐここから、出て行きなさぁい!!」 ばさり、と。 久しぶりに見る、黒い羽根を大きく広げて……それが、半分でしかないことを、改めて思い知る。 その、片方だけの黒翼で、水銀燈は真紅を脅していた。 いや、これ以上ここにとどまっていたら、脅しだけじゃ済まないだろう。 それは真紅も感じ取ったのか、これ以上の長居をするのはあきらめたようだ。 「……どうやら、今日は無理のようね。 行きましょう、士郎、雛苺」 踵を返した真紅は、俺と雛苺に声をかけて、入り口へと立ち去ろうとする。 ちなみに雛苺は、入り口のところからおっかなびっくり中を覗いていた。 「え、でも……いいのか?」 「今はここに居てもなんにもならないわ。 水銀燈には、少し頭を冷やしてもらわないと。 ……だから、士郎、お茶を入れて頂戴。 そろそろお茶をするのにいい時間だわ」 そう言われて、俺は……。 α:今はそっとしておこう。真紅と雛苺と共に立ち去った。 β:一人だけにはさせられない。水銀燈とここに残る。 投票結果 α:0 β:5
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ボクと水銀燈が、コミケのコスプレ会場を訪れた理由は、単純にして明快。 この人混みの中から、水銀燈の親友である柿崎めぐさんを探し出し、保護するためだ。 柿崎さんは、『えーりん』とか言う謎のコスプレをしているらしいんだけど……。 どこを見渡しても、人、ヒト、ひとだらけ。 しかも、煌びやかで凝った衣装のコスプレイヤーが、ほとんどだ。 真夏の強烈な日射しに、眩しいコスチューム……なんだか目が痛くなってきたよ。 もう帰りたい。誰でもいいから、ボクを、おうちに連れ戻してよ。 つい、いままで懸命に呑み込んでいた弱音が、だらしなく口から溢れそうになった。 けれども、運命の女神は、そんな甘えさえも許してくれないらしい。 「あぁっ!?」 見つけてしまったよ。間近な人混みに佇む、赤と青のツートンカラーの後ろ姿を。 肩の丸みや腰つきからして、女の子なのは確定的に明らかだ。 およそ有り得ない白い長髪が奇妙だけど、おそらく、ウィッグだろう。 そのコスプレさん以外にも、多くの人が髪を染めたり、カラフルなウィッグを使用していたからね。 すぐ腕を伸ばせば、肩を掴める距離だと直感で悟った瞬間―― 咄嗟に、の表現がドンピシャなほど、そこからのボクの行動は反射的だった。 右手で水銀燈の服を掴んで引っぱり、左手では、柿崎さんと思しい女の子の肩を叩いていた。 我ながら、器用な真似をしたものだね。 「なにっ?!」水銀燈が、ギョッと振り返り。 「ひぁっ?!」コスプレさんも、ビクッと弾かれたように身体を震わせる。 そして、コスプレさんが振り向いて数秒―― ボクたちは仰天するあまり口を開けっ放しで、二の句を失ってしまった。 なんとか喋れるようになっても、絞り出せたのは呻き声だけ。 どうして、そんなにも驚愕したかと言えば、そのコスプレさんというのが…… 「あれ? 銀ちゃんと、蒼ちゃん……だよね?」 「そう言う貴女は、もしかしなくても薔薇水晶っ!」 水銀燈に名前を呼ばれて、薔薇水晶は、にこりと白い歯を浮かべた。 トレードマークの眼帯を外してしまうと、コスプレと相俟って、まるっきりの別人だよ。 「キミって、コスプレイヤーだったのかい?」 「そうだけど……知らなかった?」 「聞いてないわ! なんなのよ、もぅ。頭がおかしくなりそう。どうしたらいいの?」 「人生……山あり谷あり。諦めが肝心」 しれっと答える薔薇水晶。それって、あんまり答えになってないような気がする。 水銀燈は頭痛を催したらしく、額に手を当てている。いやはや、ホントに『どうしたらいいの?』と言いたい。 驚かされてばかりで、もう身もココロも疲労困憊の極致だよ。 「――あれ? でも、ちょっと待って」 ボクの中に、素朴な疑問が生まれた。 雪華綺晶は最初っから、妹の薔薇水晶に売り子を頼めばよかったんじゃないのかな? 現に、こうしてコスプレには参加してるわけだし。 その疑問をぶつけると、薔薇水晶はまたも、淡々と返してきた。 「全力で拒否った。お店番……退屈だから」 「そうだね。キミはとても賢明だよ、薔薇水晶。ボクは真相を知らなすぎた」 「私も、バカだったわ。きっぱり断っておけばよかった」 お陰で、揃いも揃って生き恥を曝す羽目になったんだからね。 顔を見合わせたボクと水銀燈は、飽きもせずに眉を曇らせ、吐息した。 すべては今更だけど、それでも。 しかし、夏日に炙られて萎れた花みたいに、悄気てばかりもいられない。 気を取り直したボクは、薔薇水晶に柿崎さん捜しを手伝ってもらえないか訊ねた。 人数が多いほうが、担当エリアを絞れる分、早期発見も期待できるからね。 ひいては、ボクの帰宅も早まるというワケだ。 「手伝っても……いいよ」 「ホントに? ありがとう、薔薇水晶」 「ただし、条件がある……ひとつだけ」 「仕方ないね、大概の無理は聞くよ。少し遅くなってもいいなら、夕飯でも奢ろうか」 ファミレスで食事するくらいなら、みっちゃんが払ってくれる約束の日当で賄えるだろう。 より以上を所望されたら、残念ながら、引き下がるしかないね。 ボクの提示した条件に、薔薇水晶は両腕で頭上に○を作る……かと思いきや、いきなり×に変えた。 「じゃあ、どうしてもらいたいの、キミは」 「儀式を執り行ってくれれば……おk」 「なにを?」 「ばらりん♪ばらりん♪助けてばらりん♪……って。こう、右腕を振りながら」 なんなのさ、そのワケの解らない狂行は! あぁ、とうとう、水銀燈が頭を抱えて蹲っちゃったよ。 ボクも水銀燈も、もう半日以上は会場にいる計算だけど、絶対、このノリには馴染めっこない。 所詮、アウトサイダーだ。ならば、もう好き好んで、ここに長居するべきじゃないだろう。 いよいよ帰りたい衝動を抑えきれなくて、ボクは自棄気味に、薔薇水晶の求めるがままにした。 薔薇水晶、会心の笑みを浮かべて、ビキィン! とサムズアップ。 「銀ちゃん……。めぐさんは、私と同じ永琳コスで……間違いない?」 「ええ、そう。それと同じデザインよ。どういう経路で手に入れたのかは、不明だけど」 言って、水銀燈は自分の服を見おろし、顔を赤らめた。 「この恥ずかしいコスチュームだって、めぐが用意したものでね」 その言を受けて、薔薇水晶の瞳が光を放った。 類は友を呼ぶ。同じ病を患う者同士、通じ合うモノがあるのかな。 薔薇水晶は、柿崎さんに仲間のニオイを嗅ぎ取ったみたいだ。 「気が合うかも。めぐさんとは……ゆっくり、お話してみたい」 ボクが水銀燈に聞いたところでは、柿崎さんは先天的な持病で、長期入院しているらしい。 そんな環境ならば、病室で退屈しのぎに、マンガ雑誌を読んだりもするだろう。 自覚のないまま、ほにゃららフリークになってることだって、充分に考えられる。 しかし、眉間に深い皺を刻んだ水銀燈が、不満そうに口を挟んだ。 「よしてよ。めぐはねぇ、音楽を聞いたり、歌っているのが大好きな娘だったのよ。 それが、急にコミケに行きたいなんて言いだして……理由を訊いても、はぐらかすし。 どうにも、腑に落ちないのよ。さては、誰かに唆されたに違いないわ!」 唆されたとは、水銀燈の勘繰りすぎじゃないのかな。 柿崎さんも、なにかの弾みでコミケに興味をそそられたのかもしれないし。 たとえば、同年代の入院患者にマンガ好きな子がいて、その子に触発された……とか。 「テレビやラジオで見聞きして……楽しそうって思ったのかも」 「薔薇水晶の意見も、充分に考えられる線だね。その可能性はないのかい、水銀燈?」 「うーん。皆無と言い切る根拠も自信も、さすがにないわねぇ。四六時中、めぐと一緒にいられるワケじゃないしぃ」 そういうこと。物事を変えるキッカケなんて、どこに転がってるか判らないもの。 なのに、勝手な思い込みで決めつけるのは、不毛な諍いの種を増やすだけだ。 水銀燈に限らず、ボクの友人たちには、そんな美しくない真似はしてほしくないものだね。 「ひとまず、原因の追求は後に回そう。柿崎さんを保護するのが先決なんでしょ」 「……そうね。いい加減、私も帰りたいしぃ」 「今日はなんだか、キミとよく気が合うね。全面的に賛同するよ」 ――と、捜索を再開しようとしたんだけど……いきなり出鼻を挫かれた。 「おーい。なにしてるのさ、薔薇水晶」 ちょっと目を離した隙に、薔薇水晶が、見ず知らずのカメラマンの前でポーズをとっていたんだ。 そりゃあね、そういう場所かもしれないよ、ここは。 薔薇水晶だって、一生懸命つくった衣装を褒めてもらえたら嬉しいだろうし。 だけど、敢えて利己的な意見を述べさせてもらえば、柿崎さん捜しに集中してほしかったよ。 「硬いこと……言いっこなし。じゃあ、次は……三人で撮ってもらうお」 「え? ちょっと貴女、なに勝手に仕切ってるワケぇ」 「ふふ~ん。銀ちゃんってば照れちゃって……かーわいいんだぁ」 「なっ、バカじゃないの! ふざけないでよ、たかが写真じゃない」 うーん。キミは乗せるのが巧いね、薔薇水晶。 それとも、水銀燈が単純すぎるのかな。すっかり撮影される気になってるよ。 まあ、いつものように勢いで押し切られちゃうボクが、彼女を揶揄できた義理じゃないけど。 その後も、タチコマという着ぐるみのコスプレイヤーさんとも、ツーショットで撮られたり。 あちらこちらでお願いされるたびに撮影してもらいつつ、柿崎さんを捜していると―― 「あっ、見て見て、あれ!」 薔薇水晶が嬉々とした声で言うので、もしや柿崎さん発見かと、目を向けてみれば…… コスプレイヤーさんには違いなかったけれど、それは身長2メートル近い、大柄な男性だった。 しかも本格的な、ヴィジュアル系バンドを彷彿させる人間離れしたメイクまで施している。 「あれなら、ボクでも知ってるよ。映画にもなったDMCでしょ」 「そそ、クラウザーさん。最高……カッコイイね」 「どこが格好いいワケぇ? どう見たって、バカそのものじゃない」 「ちょっと、水銀燈。声が大きいよ。聞こえちゃったら、どうするのさ」 「ふん! 構うもんですか。聞こえたら、どうだって言うのよ」 「あぁもう。すっかり、やさぐれモードに……」 果たして、水銀燈の嘲りが聞こえてしまったらしく。 クラウザーさんは、のしのし大股でボクたちのほうに歩いてくると、徐に―― 「レイプ(×10)! はてなようせいなどレイプしてくれるわ~~~!!」 ヒイィ、どういうコトなのさ。激しく腰をカクカクしちゃって、このヒト変だよ! もう、どう対処したらいいか判らないボクとは対照的に、水銀燈は落ち着いたもので。 冷ややかに睨んでいたかと思えば、次には、クラウザーさんの股間を蹴り上げていた。 その際に、特殊なカットのスカートが捲れあがって、その……白いのが丸見えに……。 レオタードだよね、きっと。あんまり露出の際どいコスプレは禁止だって聞いたし。 ともあれ、騒ぎになる前にフォロー入れとかなきゃ。 ボクは、股間を押さえて蹲ったクラウザーさんの脇に駆け寄り、腰の辺りをさすってあげた。 「すみません。友だちが酷いコトしちゃって」 「イテテ……あ、平気だから、心配しないでいいよ……蒼星石」 「えっ? どうして、ボクの名前を?」 こんな背の高い男の人に、知り合いなんていないハズだ。 そう言えば、前に一度だけ会った薔薇水晶のお父さんは、背が高かったけど……まさか?! 「ハト豆な顔してるな。まあ、それも無理ないけどさ、これじゃあ」 乾いた笑いを漏らすと、男性は懐からナニかを取り出し、顔に装着した。 「僕だよ、蒼星石」 「ウソッ?! キミは…………ジュン君なのかい? ホントに?」 自分の目が信じられなかった。 でも、前にいるのは紛れもなく、同級生にして学級委員のメンバー、桜田ジュン君だ。 「でも、あの……言ったら失礼だけど、キミはもっと小柄で――」 「シークレットブーツだよ。40センチくらい嵩上げしてるんだ」 「あぁ、どうりで臑が異様に長いと思った。40センチも高くしたら、もう全然シークレットじゃないよね」 「気にするな。そんなの言葉のアヤだ」 伝家の宝刀『言葉のアヤ』で両断されたんじゃあ、後の句は続けられないお約束。 言葉に詰まったボクと入れ替わりに声を発したのは、水銀燈だった。 メガネをかけたことで、彼女にも辛うじてジュン君だと判別できたらしい。 「やぁね、どこのおバカさんかと思えば。貴方までコスプレ狂だったなんて」 大仰に肩を竦めて、続ける。「まったく、今日はどういう日なのかしら」 どう考えても厄日だと思うよ。まあ、言えば皮肉になるから、黙っておくけどさ。 いい加減、瑣末なことに心を波立たせるのにも疲れていたし。 「まあまあ、水銀燈。ここで逢ったのも、なにかの縁だよ。ジュン君にも、柿崎さんを探す手伝いをしてもらおう」 「それもそうね。めぐったら、どこをほっつき歩いてるんだか」 「……なんだ、おまえら。柿崎を探してたのか?」 さらっと、ボクと水銀燈の会話に、聞き捨てならない一言が割り込んだ。 「ジュン君! キミ、柿崎さんを知ってるのかい?」 「知ってるもナニも、あいつに頼まれてコスプレ衣装を縫ったの、僕だし」 「ちょっ、なに? めぐと貴方が知り合いだったって……聞いてないわよぉ!」 「そりゃまあ、SNSで交流し始めて、まだ日が浅いからな」 SNS……mixiかな? それにしても、また意外な真相が発覚したね。 柿崎さんと水銀燈のコスチュームの出所が、こんなカタチで明確になるとは思わなかったよ。 「ひょっとして、柿崎さんにコミケのことを吹き込んだのも、ジュン君だとか?」 「なんの話だ? 僕は関係ないぞ」 「……ううん。知らないなら、いいんだ。気にしないでね。それより、柿崎さんのことだけど――」 キミは、彼女の居場所を知っているのかい? 一縷の望みに期待して訊くと、ジュン君は自信に満ちた様子で頷いた。 「もちろんだ。さっきまで一緒にいたからな。案内してやるよ、こっちだ」 思いがけず急展開。それも、いままでのフラストレーションを一掃する大逆転だ。 「めぐさんに逢えるよ……やったね銀ちゃん」 「うっ、うぅっ。ホント、よかった。これで……これで、やっと帰れるわぁ」 薔薇水晶の言葉に、水銀燈が声を震わせる。泣いちゃうほど感激しているんだね。うんうん、解る解る。 かく言うボクも、ええい、あぁ、キミからもらい泣き~。 出がけの感じだと、みっちゃんのスペースに戻った頃には、もう完売してそうだし。 これで、これで……ボクはまた一歩、家路に近づけたんだ。こんなに嬉しいことはない。 ★ 「――で、柿崎さんと合流できたんです。まったく、人騒がせな話ですよね」 心地よい達成感から、みっちゃんにコトの顛末を語って聞かせるボクの声も弾んでいた。 「再会できたときの、水銀燈の嬉しそうな怒り顔ったら……あんな顔、初めて見たな」 「一件落着ね。これでコミケを嫌いにならないでくれたら、なおよしなんだけど」 「ボクに限ってならば、それは、ないですね」 嘘ではない。貴重な体験をさせてくれたコミケという小宇宙が、少しだけ好きになっていた。 とは言っても、二度とは訪れないだろうけれど。 そう告げると、みっちゃんは世界の終わりを迎えたかのような顔をした。 「残念ね。これを機に、コスプレに目覚めてくれないかな~、なんて期待してたんだけど。 まっ、仕方ないかー。蒼星石ちゃんの気持ちを尊重すべきだものね。 あ、でも万が一にでも気が変わったら、遠慮なく連絡ちょうだいねー」 心変わりなんて、絶対にないと思う。でもまあ、それは言わないでおいた。 なにも好き好んで他者との間に壁を設けななくても、いいんだからね。 「さって、と。あらかた売り尽くしたし、そろそろ店じまいしましょー」 「もう、片づけるんですか?」 「成果は充分よ。それに、私も島巡りして、掘り出し物をゲットしたいしー。 ホントに、今日はありがとう。蒼星石ちゃんのお陰ね」 そんな風に言われると照れる。 どこまで役に立てたのかは、実際のところ疑問だけど。折角なので、素直に喜んでおいた。 「これは、ほんの御礼の気持ち。受け取ってちょうだい」 言って、みっちゃんが差し出してきた封筒は、予想外に厚めだった。 詳細は伏せておくけれど、正直、こちらが申し訳なくなってしまうほどの額だったんだ。 その晩の日記は、いろいろとネタが多すぎて、なかなか書き終わらなかった。 一生に一度きりの、貴重な一日だからね。ちゃんと書き残しておかなきゃ。 でも、家族に話す気はない。親しき仲にも、言葉にできない秘密は、あるものだからね。 以降は、これといって大きなイベントもなく―― 夏休みは猛暑と蝉時雨の中へと、穏やかに融けていった。 ★ そして、月が変わり、いよいよ始業式の日。 「それじゃあ行こうか、姉さん」 「はいですぅ。おじじー! おばばー! 行ってくるですよー」 姉さんが大声で、玄関から奥の台所に声をかける。 最近、おじいさんたちも、歳のせいで耳が遠くなり始めたからね。 それを気づかってのコトなんだろうけど。 「そんな大きな声ださなくたって、ちゃんと聞こえてると思うよ。 姉さんの声って、ただでさえ、よく通るんだもの」 「一応ですよ、一応。ささ、ちゃっちゃと登校しちまうです」 「はいはい。張り切るのはいいけど、忘れ物しないでよ?」 「へーきのへーざですぅ」 ――なんて、新学期になっても、いつもどおり仲良し姉妹のボクたち。 でも、あのコミケの一件だけは、姉さんには秘密にしている。 雪華綺晶や水銀燈、ジュン君にも、ナイショにしてくれるよう電話で頼んであった。 およそ一ヶ月ぶりの学校は、若い活気に満ちあふれている。 多くの生徒は気怠そうだけど、その肌は健康そうに日焼けしていた。 「ん? なんですかね、昇降口が騒がしいですぅ」 周囲を観察していたボクのワイシャツの背を引いて、姉さんが話しかけてきた。 見れば、確かに人だかりができている。新学期の注意とか、掲示されてるのかな? しかし、それなら各教室のHRで先生が話すなり、プリントを配ればいいだけだよね。 興味津々の姉さんに腕を引かれ、行ってみると……。 「ウソっ?!」 思わず、ボクは声をあげて、口に手を当てていた。 掲示板に貼ってあったのは、学校行事についてではなく、大判に引き延ばされた写真だった。 それも、タチコマの着ぐるみとボクとの、コスプレツーショット。 「そっ、蒼星石?! これ、蒼星石ですよね? 一体、どういうコトですぅ!」 姉さんが、よく通る声でボクの名を呼んだりするものだから、生徒たちが一斉に振り向いた。 そして、無遠慮な視線と共に、ヒソヒソと囁きを浴びせてくる。 『ああ、あの子ね。真面目そうな顔して、こんなコトしてたんだ』 『やぁだ、恥っずかしいー』 『人は見かけによらないね~』 『やっべー。エロすぎだろ、これ』 『けど、スタイルいいよなあ』 『も、ももも、んもももも萌えぇ~』 『ハァハァハァハァハァハァハァハァ……ッ!』 どうして……誰が、こんな真似を? なんで、こんなコトに……。 ああ、痛い。周りの空気が痛いよ。姉さんまで、そんな眼でボクを見ないでぇっ! 「う……やだ…………イヤだぁっ!!」 もう限界。いたたまれなくて、ボクは泣きながら学校から逃げ出した。 姉さんの引き留める声にも立ち止まらず、家まで駆け戻り、ベッドに倒れ込んだ。 ★ 「…………あ……れ?」 ――気がついたら、ボクは制服姿のまま、ベッドに横たわっていた。 なんで、こんなコトしてるんだっけ? 頭が朦朧として、よく思い出せない。 濃霧が立ちこめた森の中を、手探りで進んでいるみたいで、なんだか心許なかった。 「制服、着てる…………あ、学こ……うぅっ!」 いきなり、頭に鋭い痛みが走って、思わず顔を顰めた。 それ以上の思考を閉め出そうとするみたいに、頭痛は収まらない。 ボクは両手で頭を抱えながら、なにか違うコトを考えようとした。 「今日は……何日だっけ? えと……9……痛っ! …………8…………あれ?」 不意に、頭痛が和らいだ。8。そう。8という数字が、とても気持ちよく思えた。 「――そうか。あははっ」 その意味するところを悟ると、笑みがこみ上げてきた。「今日はまだ、8月なんだ」 いけないな。どうやら夏休みボケしてたらしい。日付を間違えてしまうだなんてね。 そうだ。折角だから、このネタを日記に残しておこう。後々の笑い話として。 足取りも軽く机に向かい、ボクは開いたページに、一行目を記した。 【ボクの夏休み。8月32日――】 この直後だった。手元の携帯電話が鳴りだしたのは。 表示された電話番号は、ボクのよく知る人物のものだった。 -4-
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水銀燈「…よし、じゃあみんな集まってくれるぅ?」 その声に、プールで自由に練習をしていた水泳部の面々は、一斉に彼女の元へと集まった。 総勢40人…よくもまあ、ここまで揃ったものだと水銀燈は感心する。 これだけよい環境で始められたのも、全てメイメイのおかげ… その上、彼女は事務員という特権を生かし、かなり強引に部活動費の追加を承認させたらしい。 水銀燈「…これで失敗したら、本当に首でも吊らなきゃダメね…」 自嘲気味にそう呟くと、彼女は集まった部員たちに向かって、こう話を切り出した。 水銀燈「…一応、今日は一人一人の泳ぎ方を見せてもらったわけだけど、やっぱり気になる点がいくつかあるわねぇ…。ま、それに関しては、後で個人別にメモしたものをあげるから、明日以降はそれを意識して練習しなさぁい。」 その言葉に、部員たちは「はい!」と元気よく声をそろえる。 そんな部員たちの様子に、彼女は「…何か、調子狂うわねぇ…」と頬をポリポリと掻くと、あるものをファイルから取り出し、皆にこう言った。 水銀燈「…で、今日の所はこれで解散と言いたいところなんだけどぉ…。みんな、今からこれ書いてくれるぅ?濡らさないように気をつけてねぇ…。」 男子A「え…何ですか、これ…?」 水銀燈「何って、水着の発注書よぉ。どの程度早くなるかは知らないけど、一応例の鮫肌競泳水着…『ファーストスキンFS2』っていうらしいんだけど、それ…取り寄せてみるわぁ…。で、洗濯して乾かないといけないから、とりあえず1人3着ずつ注文しておくわよぉ。」 その声に、部員たちは一気に沸きあがる。 その水着に対する物珍しさもそうだが、先生も本気だということが分かり、部員たちにはそれが嬉しかったようだ。 一方、水銀燈はというと、そんな部員たちの姿を見ながら、冷めた様子でこんな事を考えていた。 「期待と絶望って…その落差が大きいほど、ダメージが大きいのよねぇ…」 そこには、どうしても人というものを信用できない、彼女の姿があった。 水銀燈「…で、Nは息継ぎの時に頭を上げすぎ…自分の斜め後ろを見上げるつもりで頭を回すことを意識するように…と…。ふぅ、やっと終わったわぁ…。メイメイ、そっちはどぉ…?」 部員たちと別れた後、水銀燈はメイメイのいる事務室を訪れ、それぞれの職務をこなしていた。 問いかけられたメイメイは、電話から耳を離し、こう答える。 メイメイ「ええ、量が量だけに1週間ほどかかるそうですが、何とか手配のほうは…。」 1週間か…。まあ、120枚も集めなくてはいけないのだから、仕方が無い。 それにしても…120枚だなんて、業者にしてみればとんだ臨時収入に…臨時収入…? その時、水銀燈の頭にある考えが閃いた。 水銀燈「…120枚…ということは、たった千円違うだけで12万も儲かるって事じゃなぁい…♪」 考えてみれば、臨時手当もなくこのような仕事を押し付けられたのだ。 それに業者の方だって、本当ならこの時期にこんな大金を得る機会はなかったはず…。 なら、それがそっくりそのまま私の元に転がり込んできたとしても、なんら不都合は無い…! 水銀燈「…メイメイ、担当者の名前…教えてくれるぅ?」 妖しげな笑いをまじえつつそう言う彼女を見て、メイメイは内心で安堵する。 良かった…ようやく、お姉様が本来の姿に戻ってきた…と。 やっぱり、お姉様にはしょぼくれた姿は似合わない…そんな事を考えながら、メイメイは彼女の問いに、うやうやしくこう答えた メイメイ「担当者は、『草笛みつ』という方です。何でも、金糸雀さんのお知り合いらしく、かなりの値引きをさせてもらったのですが…ただ…」 水銀燈「…ただ、なぁに?」 メイメイ「…何でも、お姉様に1度お会いしたいそうなんです…。『金糸雀から噂は聞いているのでどうしても会いたい』と…」 水銀燈「私に…?」 いきなりの指名を受け、水銀燈は困惑する。 自分に会いたいだなんて、物好きな女もいるものだ…。 昔の知り合いか何かだろうか…。 いずれにしても、メイメイの口調から、その女に何らかの魂胆があるのは間違いなさそうだが… 水銀燈「…いいわよぉ…。別に会うぐらいなら…」 こうして、水銀燈は相手の出かたを探りながら、草笛みつ…通称『みっちゃん』との『商談』に臨むのであった。 みっちゃん「どーもー初めましてぇー!結菱物産営業部第2課1係、そしてカナの友達の草笛みつでーっす♪」 一週間後、そう言って現れた彼女を前に、水銀燈は自分の考えの甘さを悟った。 色々なパターンを想定してきたが、まさかこんな人間が現れるとは思ってもいなかったのだ。 自分の手を握り、そしてブンブンと握手を繰り返す彼女に、流石の水銀燈も「…あ、そぅ…。」としか声が出ない。 同席したメイメイにいたっては、何かあったときにはすぐに動けるようにと、警戒心をむき出しにしている。 なるほど…あの時、メイメイが難色を示したわけだ…と水銀燈は一週間前のことを思い返す。 もしかして、この女には『そっち』の気があるのだろうか…。だとすれば、正直あまりかかわりたくは無いが… 水銀燈「…もう満足した?だったら、早く仕事の話をしましょ…。私には時間が無いの。」 うんざりした様子でそう語る水銀燈に、ようやく彼女も本来の仕事を開始した。 みっちゃん「…118、119、120…っと。…では、間違いなく120万円頂戴いたします。あと、こちらが領収書で…」 そう言って領収書を差し出す彼女の手を握ると、水銀燈はいつも他の男達にやっているように、上目遣いでこんな事を言い出した。 水銀燈「ねぇ…。その領収書のほかに、定価…つまり1枚2万5千円で買ったときの領収書もくれなぁい?」 正直、この方法がこの女に効くかどうかは分からない…。それに、効いた時のほうが厄介な気もするのだが… そんな考えをよそに、みつは慌てた様子でこう答えた。 みっちゃん「…え!?で、でもそれって違法行為であって…」 その言葉に、水銀燈は彼女の口にそっと手を当てる。 …良かった。一応、常識はあるようだ。だが… 水銀燈「…私、いけない子なの…。でも、あなたなら私の気持ち…分かってくれるでしょう…?」 そう言うと、水銀燈は自身の財布を取り出し、その中から20万円程度を彼女の前に差し出すと、さらにこう言った。 水銀燈「…あげる。で、これを気に…これからもいい関係を築いていきたいと思わなぁい?」 そう言いながら彼女の後ろに回りこみ、そして耳元で何かを囁こうとしたその時、何者かが水銀燈の肩を叩き、こう声をかけた。 ?「…そんなに人にあげるお金があるのなら、『僕達』にもそれ…分けてくれるかな?」 その声に、水銀燈は全身の血の気が引いていくのを、はっきりと感じていた。 蒼星石「しばらく顔を出せなくてごめんね…。でも、本当にみんな見違えたね!今日届いた新しい水着も馴染んでいるみたいだし、この調子で3日後の練習試合も頑張ろうね!!」 この日、学校の屋内プールには、水銀燈の代わりに先任の蒼星石が水泳部の指導のためにやってきていた。 彼女の話によると、顧問である水銀燈は『急病』のため、保健室で療養中らしい。 「そういえば、凄い疲れた顔してたもんなぁ…」と、昼休み終了直前に彼女を見掛けた者は仲間にそう語った。 ちなみに、今回の彼女の損失額は、全部で120万円…。 つまり、部員たちの水着の代金は全て水銀燈が負担することになったというわけだ。 この事に関し、水銀燈とメイメイはしきりに抗議をしたが、蒼星石に「本来なら、これ以外に部活動反則金を取られてもおかしくない訳だし、それでも文句がある場合は、僕も事の真相をみんなに話すよ?」と言われてしまったため、泣く泣くそれに従うことになったのだった。 …ま、あそこでお金を選ばなかっただけでも、少しは成長したと言えるのかな…。 そんな事を考えながら、蒼星石は各部員たちに解散の指示を出そうとする。 その時、「私の代わりにやってきて…。今は1人になりたいの…」と水銀燈から指示を受けたメイメイが、皆を引き止め、こんな事を言い出した。 メイメイ「待ってください…!あの…今日皆さんが着ている水着の事なんですけど、実はそれ…水銀燈先生が自費で購入したものなんです…。だから…大切に使ってください…。そうすれば、少しは先生も報われると思いますので…」 おずおずと彼女が語った言葉…それは部員たちに思わぬ効用をもたらした。 メイメイとしては、別にその言葉以上に何かを狙ったわけではなかったのだが、部員たちは皆、控え室に戻るのをやめ自主的に練習を再開し始めたのだ。 それはメイメイにとって、全く理解の出来無い行動であった。 メイメイ「…え?どうして…?みんな疲れているのだから、今日はゆっくり休んで明日に備えたほうが、効率がいいのに…」 その言葉に、蒼星石はメイメイの肩に手を置き、こう声をかけた。 蒼星石「そんなこと言っちゃダメだよ…。みんな、君たちの気持ちに応えようと必死なんだから…」 その言葉に、メイメイは思わずはっとする。 そして、何か目頭が熱くなるのを感じながら、メイメイはみんなの姿を見ながらこう呟いた。 メイメイ「…ありがとう。みんな…」 誰にも聞こえないような…しかし、はっきりとした口調で…。 こうして、有栖学園水泳部はこの熱気を保ったまま、3日後の練習試合を向かえることになるのであった。 完